2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年4月2日

 イランのロウハニ大統領は、3月11-13日にイラクを公式訪問した。ロウハニとイラクのマハディ首相は、貿易の強化、両国間の鉄道リンク樹立、観光客や投資家への旅行制限の撤廃措置をとることについての合意を発表した。13日にはロウハニは、イラクで最も尊敬されている宗教的権威、大アヤトラ・アリ・シスタニと会談した。シスタニとの会談は、イランのこれまでの大統領も、米国の歴代大統領もなしえなかったことである。

(Bullet_Chained/bodrumsurf/rilora/LysenkoAlexander/iStock)

 シスタニは声明で「主権尊重と国内問題不干渉に基づく、隣国とイラクとの関係強化のいかなる動きも歓迎する」と述べた。声明はイラクのシーア派民兵への言及と受け取られている。これらの民兵はイスラム国(IS)敗北に役割を果たし、人々の支持を得、イラク議会でも政治的影響力を確保している。彼らは重要なスンニ派地域でもIS排除に役割を果たし、非公式な支配力を得た。米政府も多くのイラク人も民兵はイラク中央政府の支配を受けないイランの代理人とみている。

 ロウハニの今回のイラク訪問は、次の2つの理由から、大成功であったと考えられる。

 第一に、イラクのマハディ首相は、米国の対イラン制裁にイラクは参加しないと明言した。現在の貿易額は年120億ドルであるが、それを200億ドルに増やしたいと両国は考えているという。イランの石油輸出を締めあげることを米国はその制裁の主要項目として考えているが、イランが隣国イラクに石油を輸出し、それがイラクを通じて他国にも輸出される場合、それをどのようにして止めるのか。ドル決済システム、SWIFTを使って、イラクも締め付けるようなことをすれば、米イラク関係が緊迫した敵対的関係になりかねない。米国のイラン経済制裁網には大きな穴ができたように思われる。

 第二に、イラン国内では、イランの神権政治の枠内ではあるが、ロウハニのような実利的で国際協調を重んじる勢力と革命防衛隊を中心とする強硬派勢力の間で争いがあることは否めない。そういう状況において、イラクのシーア派の最高権威シスタニがロウハニを支持し、革命防衛隊の活動に批判的な発言をしたとされていることは、ロウハニのイラン国内での立場を強化することに資するだろう。

 今後、どうなるのか。米国のイラン孤立化政策は欧州の反発、中ロの反発、隣国イラクの反発でうまくいかない公算が大きい。米国の政策に心から賛同しているサウジやイスラエルには、米国を助けてできることはあまりない。米国が考え直してイラン核合意に復帰してくれば結構なことであるが、トランプとしては面子の上からもそんなことはできないだろう。米国での政権交代までイランも欧州も核合意を守り、現状を維持していくしかないと思われる。ロウハニの立場強化、米国の制裁の効果の減退はこれを可能にすると思われる。

 なお、トランプは昨年末、シリアからの米軍撤退を決めた後、イラクの米軍を訪問、「イラクの米軍を撤退させることはない。ISとイランへの対処の上で、必要である」と発言、イラクを対イランの前進基地であるかのように言った。これは、3月8日付け本欄『イラクをイラン包囲網の「駒」に使おうとするトランプ政権』でも取り上げたが、イランとイラクの間にはシーア派を通じた深い関係がある一方、イラクはイランの影響力増大を懸念し、米国にバランサーの役割を望んでいるという構図に鑑み、不適切な発言である。感情的にも、当然、イラクの反発を呼び、かえってイラクをイランの側にやることに繋がっている。トランプは、賢明でない政策や発言により、自らが強く主張するイランの影響力減殺とは逆の結果をもたらしている。
 

  
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