これまで日本が多大な外交努力を払って各国の理解を得てきたボトムアップ・アプローチは、外交場裡から姿を消すのだろうか。実は、皮肉にも、オバマ大統領が救いの神になるかもしれない。米国政府は、削減目標を国内法案にゆだねており、次期枠組みにおいても京都議定書の時と同じく、国際的な法的拘束力を持つ削減目標を受け入れない可能性が高い。オバマ政権は、国際的非難を避けるため、世界の二大排出国である米中間で、何らかの削減義務及び資金・技術協力に関する二国間の協定を結び、他国にも同様のアプローチを呼び掛けていくと見られている。WTO(世界貿易機関)交渉がだめなら、FTA(二国間自由貿易協定)でという流れと同じだ。
二国間協定となると、セクター別に協力案件を探し、削減ポテンシャルを分析して積み上げていくことになる。これは、産業界の「自主行動計画」を通じてボトムアップ・アプローチを実践してきた日本に最も知見がある分野だ。オバマ大統領は、11月半ばに中国を訪問するが、その際に12月のCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)15に向けて、何らかの大きな提案をするという観測があり注目したい。その前後にある2回目の日米首脳会談は、まさに日本が「架け橋」(鳩山総理)になることを演出する最大のチャンスだ。米中間の交渉内容に関して、相当ディープな情報までつかんでいることが欠かせない。鳩山外交の真価はここで問われると言ってよい。
「公平性」の 判断基準が不明
今後、本格的な外交交渉に踏み込むには、「公平かつ実効性のある国際枠組み」(鳩山総理)の「公平性」の基準を明確にしなければならない。25%削減構想と相手国の中期目標との相対的公平感が説明できなければ、相手国に具体的な譲歩を迫ることもできないし、今後の交渉の緊迫した場面で最終的に出てくる数値目標が受け入れ可能なものかどうかを国民が判断することもできない。「日本だけが損をすることがないようにする」というのは衆議院選挙中から民主党幹部は強調してきている。
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これまでの麻生政権で行われた中期目標検討委員会やセクター別アプローチを提唱していた外交方針では、公平性の具体的基準として「限界削減費用」(追加的にCO2を1トン削減するためにかかる費用のこと。各国のエネルギーまたはCO2効率と言い換えてもよい)を採用してきた。右図を見ていただきたい。検討委員会に提出された各研究機関の分析結果によれば、麻生政権時の中期目標2005年比15%削減の際の限界削減費用は150ドル/トンCO2だったが、今回の90年比25%削減構想での限界削減費用は621ドル~1071ドル/トンCO2に跳ね上がる。それに対して、他の主要先進国の限界削減費用は数十ドル程度であり、日本は文字通り桁違いに大きい。すなわち、各国中期目標の表面上の削減目標数字(上表の最左欄)の比較では、各国負担の相対的公平性は到底測りえないことが一目瞭然である。日本の限界削減費用が大きいことは、産業界のコスト削減努力や家庭での「もったいない」文化が効を奏し、既に簡単に(低コストで)実現できる省エネ機会は費消されており、相当高くつく方策しか残っていないことを示している。