2024年12月6日(金)

前向きに読み解く経済の裏側

2019年5月6日

 令和時代の日本経済のキーワードは「労働力不足」だ、と久留米大学商学部教授の塚崎公義は考えています。

 新しい時代が始まりました。まずは新しい時代が始まったことを祝いましょう。その上で、新しい時代の日本経済がどのようなものになるのか、考えてみましょう。

(CHENG FENG CHIANG/Gettyimages)

労働力不足の底流には少子高齢化による大きな流れあり

 アベノミクスで労働力不足が深刻になっています。しかし、アベノミクス自体は経済成長率も低く、景気が過熱しているという感じでもありません。低成長なのに労働力不足なのは、底流に少子高齢化による労働力不足があるからです。

 筆者が最初に少子高齢化による労働力不足に気づいたのは、リーマン・ショックの時でした。8年前のITバブル崩壊と比べて遥かに深刻な不況であったにもかかわらず、失業率はITバブル時と同じだったのです。

 それは、8年の間に大量の高齢者が離職した一方で、働き始めた若者の数が少なかったからなのですね。現役世代人口が大きく減っていたから、リーマン・ショックでも失業率がそれほど高まらなかったわけです。

 その後も少子高齢化は続いていますから、仮に今再びリーマン・ショックが起きても、おそらく失業率は当時より低いものにとどまるでしょう。

 少子高齢化が労働力不足をもたらす理由は今ひとつあります。若者が自動車を買っても全自動のロボットが作ってしまうので、労働力不足になりませんが、高齢者が介護を頼むと大勢の介護士が必要なので労働力不足を招くのです。同じ金額の個人消費でも、労働力不足への影響が違う、というわけですね。

労働力不足でバブル崩壊後の長期低迷期の諸問題が一気に解決

 労働力不足という言葉は、否定的なイメージの言葉ですが、企業経営者にとって困ったことであっても労働者にとっては嬉しいことです。ライバルが少ない、ということですから。

 労働力不足により、失業者が事実上いなくなったのみならず、今まで仕事探しを諦めていた高齢者や子育て中の主婦でさえも「ぜひ働いて下さい」と言われるようになりました。働く意欲と能力のある人が誰でも生き生きと働ける、というのは素晴らしいことです。

 労働力不足により、非正規労働者の時給が上昇しはじめています。非正規労働者は時給を上げないと集まらないし、集まった人も時給を上げないと引き抜かれてしまうので、非正規労働者の時給は労働力の需給に敏感に反応するのです。

 今後も、非正規労働者の時給は上がっていくでしょうし、労働者を囲い込むために非正規労働者を正社員に登用する動きなども広がりつつあります。ワーキング・プアの生活が少しずつマシなものになって来るわけですね。

 ブラック企業も、消滅しつつあります。学生はブラック企業以外に就職先が多数ありますから、わざわざブラック企業には入社しませんし、既存の社員も転職先が容易に見つかりますから、辞めていきます。

 つまり、ブラック企業はホワイト化して社員を確保するか、社員が辞めて消滅するか、という選択を迫られるわけです。こうした傾向は、今後も続くでしょう。

日本経済が効率化、財政赤字も縮小へ

 失業が減れば、非効率な「失業対策としての公共投資」が不要になります。労働力不足は、企業に省力化投資を促しますから、日本企業が効率的な生産を行うようになるでしょう。

 それだけではありません。高い賃金の払えない非効率な企業から高い賃金の払える効率的な企業へと労働力が移動する事によっても、日本経済は効率化していくわけです。

 財政赤字も減っていくかもしれません。今までは「増税したら景気が悪化して失業が増えてしまう」と言われて増税が難しかったのですが、今後は「増税して景気が悪化しても失業が増えないから、気楽に増税できる」という時代が来るかもしれないからです。


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