2024年12月7日(土)

Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年6月3日

 常に謙虚に、小僧の心で。日本の未来を牽引するリーダーたちが塩沼師の元に通い続ける理由は、真の成功の意味を、師の生き方や言葉の節々、立ち振る舞いに見出しているからだ。

 「私たちは弱い人間ですから、お金や権力を得れば気持ちよくなっていく。しかし、それは大きな錯覚です。例えば『権力』という字には『仮の力』という意味が隠されています。権力など、かりそめのものなのです。もっと言えば『仕事』とは、『人にお仕えする』という意味。仕事を通して、内面を成長させることこそが人生修行なのです。その心がけがあるかないか。その人の真価が試されます」

 ところが近年相次ぐのは、企業不祥事だ。企業や経営者の倫理が崩れてきている。

 「小欲知足。欲しがらず、足るを知るということが大切です。しかし、企業は相変わらず対前年度比でどれだけ収益を伸ばせたか、にこだわっていますね。でも冷静に考えてもみてください。永遠に成長し続ける企業など、過去に存在したことなど聞いたことがありません。にもかかわらず、『もっと、もっと』と……」

 日本仏教も足元が揺らいでいると警鐘を鳴らす。日本に仏教が伝来して1500年が経過する。しかし、仏教者の求心力は著しく低下し、「葬式仏教」とも揶揄されている。そして多くの寺院の消滅が続いている。

 「もしかすると日本の仏教は、形がい化しつつあるのではないかと思います。その原因は、先ほど申し上げた企業の成長のジレンマと同じで、時代の流れとともに失われた求心力を取り戻すためにカフェだ、バーだなどいろいろなことを試みていますが、宗教者がやるべきは、みなさんの心のよりどころとなるような人格を形成し、個の力を伸ばすこと、そして利他の心を持ち『祈ること』です。すべての宗教の原点は愛であり祈りです。今一度、宗教も企業も原点に立ちかえるべきです」

 「私たちができることは、善い行いを一日一日繰り返すことだけ。それはいつしかその人の身に付く。多くの人が善い行いを実践すれば、自ずと社会は変わっていく。これをお香が着物に染み付くことにたとえて『薫習』と言います。合理的で便利なデジタル社会も良し悪しです。アナログ的な面倒臭いことを、いつまでも見習い小僧の心でやり続ける。だからこそ、人も企業も成長していけるのだと思います」

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