2024年12月10日(火)

Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年5月17日

本記事掲載のWedge5月号『創刊30周年記念インタビュー「新時代に挑む30人」』では、「ホンダジェット」の生みの親・藤野道格氏ラグビー日本代表・リーチ・マイケル氏USJ復活の立役者でマーケターの森岡毅氏大峯千日回峰行を満行した大阿闍梨・塩沼亮潤氏など様々な分野で令和の時代を牽引していく30人にインタビューを行いました。

統一プロリーグが発足するも市場規模がまだまだ小さい日本のバスケットボール業界。そこに新たな風を吹かせ、クラブと地元地域を活性化させようと奔走する一人の経営者がいる。

しまだ・しんじ 日本大学法学部卒業後、マップインターナショナル(現エイチ・アイ・エス)入社。1995年に独立した後、複数の旅行会社を立ち上げ、2012年にASPE(現千葉ジェッツふなばし)代表取締役に就任。Bリーグ理事、日本トップリーグ連携機構理事などを歴任。(写真・さとうわたる)

 「千葉ジェッツ」。バスケに興味がある人で、このチームを知らない人はほとんどいないだろう。NBAで選手契約したこともある富樫勇樹を抱え、日本男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)年間観客動員数1位、天皇杯3連覇、チャンピオンシップ準優勝と名実ともに日本バスケ界のトップを走るチームだ。しかし、ジェッツは数年前まで弱小チームで、アリーナは空席だらけ、1億5000万円もの赤字を出して破たん寸前だった。それを救ったのがバスケとは無縁の起業家、島田慎二だった。

 面識のあったジェッツの会長から依頼を受け、2012年からクラブの経営を担う。島田が真っ先に取り組んだのが、チームの勝率アップでもファンサービスでもなく、確固たる経営基盤の構築だ。

 「経営陣はバスケ好きの集まりで、『子供たちに夢を与えたい』と語るのですが、金を稼ぐというビジネスへの意識が抜け落ちていました。12年当時は月給がたった5万円の選手もおり、翌月のチームの存続さえ不透明な状況でした。スポンサー料を前借りして運転資金を確保し、自社株を買い戻して意思決定を迅速化させ、曖昧だった社員の業績評価を徹底するなど、経営を一から立て直し、稼ぐための体制を整えました」

 稼ぐためには休む暇はなかった。観客が少なければスポンサーから見放され、ジェッツは終わってしまう。そこで、選手の補強に資金を投じると共に、アリーナ演出を豪華にするなど、観客数を増やすアプローチへ舵を切った。特に力を入れたのが、地元との繋がりの強化だ。市内の学校や幼稚園でチラシを配布したり、試合前には小学生チームの試合をセッティングし、子供だけでなくその両親、祖父母を呼び込む工夫もした。他にも地元大学のチアリーディング部とコラボしたハーフタイムショーを行ったり、企業の創立記念イベントに選手が参加するなど、地道な活動を重ねてきた。

 「地域から愛される存在にならなければクラブ経営は成り立ちません。観客が増えてチームの価値が上がれば新たなスポンサーがつき、クラブが豊かになり、さらにファンサービスも充実していきます」。ジェッツは年間150~200回もの地域イベントに参加している。

 「日本のプロバスケ業界は、クラブ経営をビジネスとして戦略的に行う意識がまだ低い」と感じていた島田は昨年まで、クラブ経営者を対象として「島田塾」と銘打った経営力向上のための勉強会を行っていた。ジェッツが死の淵から這い上がってきた軌跡がすべて教材となっていた。

 「バスケ業界全体が盛り上がれば、我々が得られる果実も増えます。経営では手を組み、コート上で競争すればいい。多くの観客が商店や飲食店を利用し、遠方から来た人はホテルに泊まる。各地域のクラブチームが費用対効果の高いコンテンツであることを証明すれば行政支援も進み、クラブも地域も活性化していきます。プロスポーツが地域活性化を生む大きな可能性を秘めていることを実証していきたいです」

現在発売中のWedge5月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。

  
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