経済ジャーナリスト磯山友幸氏による、月刊Wedge連載「地域再生のキーワード」では丸4年全国48カ所をめぐってきた。このほど、連載のなかで登場していただいた方々を中心に集合していただき、「未来を創る財団」(國松孝次会長)主催で「地域おこし人(じん)サミット」を開催した。ここでは、それぞれのキーマンのプレゼンを紹介していく。
第1回目は「地域おこし人の条件」。京セラで30年勤め上げたあと、公募で兵庫県豊岡市の副市長を9年間務めた、長野県立大の真野毅教授のプレゼンと、キーマンたちの議論を紹介する。
真野 今年開校された長野県立大学のグローバルマネージメント学部の先生をしております。去年までは、兵庫県豊岡市の副市長をやっておりました。元々スタートは、京セラという会社で30年間、海外畑でベンチャーキャピタル活動だとかM&Aだとか提携だとかそういう仕事をやっておりまして、9年前、公募で豊岡市の副市長になりました。
「地域おこしの条件」。定義は何かとググってみると、地域おこし企業人だとか地域おこし協力隊だとかいうふうな名前が出てきます。この人たちっていうのは基本的には地域以外の「よそ者」が外から入ってくることで地域の活性化を上げていく事を前提にしており、内側の人ではないということになっています。もちろん現実には地域の内側にも、地域おこしをしている人たくさんはいます。
地域創生に貢献する人材ということで、元野村総研の理事長で谷川史郎さんという方が『ラストキャリア〜50代から地方創生に貢献する新しい選択肢〜』という本を書かれています。実は、私もここに取り上げていただいております。ここでは、4人の人材が地方創生にどのように貢献したかが、サマリーをされています。
この中で指摘されているのは、「よそ者には地域に見えないものが見える」ということと、「プロジェクトマネージャー的な仕事ができる人」つまり、経営資源を集め機能させることができる人、ということです。
内側にいると、客観的に現状を見ることが出来ないということがあります。そこで、まず必要なのは、課題を発見して、同時に課題解決の構想を作ることです。そして、チームを作って実行する。
よそ者いうと、いつも思い出すのは、「カマスの実験」です。水槽のなかにカマスを入れます。真ん中に透明なガラスを入れて、カマスを一方の側に閉じ込めます。餌を逆側に入れてやると、ガラスの仕切りがあるので獲りに行けません。これに慣らしてしまうと、仕切りとなっている透明なガラスを取り外してもカマスは、餌を獲りに行かなくなります。この状況は、どうしたら変えられるのか。それは、よそ者も入れてしまうことなんです。
ただ、現実はカマスの実験のように簡単にはいきません。元々中にいるカマスがいっぱい邪魔をします。よそ者という要素が必要だけれども、中にいる人も大事、ということでどのようにしていけばいいのか。よそ者の定義っていうのを、ゲオルク・ジンメルさんという社会学者が書いています。「社会システムの一員ではあるが、強く帰属していない成員」という定義です。
社会システムの中に新しく入り込んで、行くも来るも、その自由を留保している人。中にいるんだけれども、いつも客観的に物事を見る。または、外にいつでも出ていける、貿易商みたいな、外から来た貿易商みたいな人みたいなイメージです。
今日、城崎国際アートセンターの館長である田口さんが来られています。この方は豊岡出身ですけれども23年間ですね東京にいて戻ってこられた。戻ってこられて副市長室に来られて、名刺がですね「おせっかい」って書いてある。
「なんか『おせっかい』することありませんか?」と言われて、ぜひ「おせっかい」をしてくれということで、色々とやっているうちに、今は城崎国際アートセンターの館長になっていただいた。こういうよそ者像もあります。
もう1つ、モリー・シュワルツさんという社会学者がいます。この人は移民の人をよそ者、異なった集団生活の文化の形で育った成員としてとらえました。僕なんかもそうで、公募で副市長になったんですけれども、豊岡とはなんのゆかりもない中で、そこに入った。
そこで仕事をする。公務員も初めて。そんなかで仕事をするときに自分がいくら発想を持っていても、内側のメンバーの価値観を理解できないよそ者が、組織を動かしていくのは大変で、やっぱり内部の人が一緒になってやってくれないところは上手くいかない。
新たな発想を、色々言う、伝える。それだけではなく、その発想を内集団と合意形成してやっていけるような人でないとなかなか難しい。最初にアイディアを持つ人と、それを受け入れて、内側で普及してくれる人。そういう人がいないとなかなか地域おこしも難しいところがあると思います。
豊岡は鞄の生産では日本一の街です。ただ、中国など海外での生産が始まると、豊岡のブランドがどんどん少なくなっていきました。そこで、『Toyooka KABAN Artisan Avenue』という、鞄のプロを目指す専門学校を併設した鞄のセレクトショップの創業を支援しました。これも、城崎温泉の外国人観光客の集客と同様、よそ者と地域にいる有志の皆さんが協働することで成功に至っています。
実際には実践、やり抜く力が必要だと思います。「GRIT」というのを、アンジェラ・ダッグワースという、心理学者の方が言われた。やり抜く力はどこから出てくるのか? 「情熱と粘り強さの掛け算」だと。では、その情熱の源はどこから来るのか? というと、やっぱり好きだと、それに興味を持っているということ、それともう1つは、その仕事が重要と思えるということ。それと希望です。希望をもってやれることっていうのが凄く大事で、この希望というのが全ての他の要素にもプラスになってくる。
こういうやり抜く力を持っている人がどうしても地域おこしには必要だし、そういう人が地域おこしをしているんだと思います。
まとめると、地域おこしの条件としては、地域おこしに情熱を持って、課題を発見して解決の糸口が見いだせる。これが解決だと思ってステップを踏める。そういう、よそ者の視点を持っている。そして、組織の価値観に縛られることなく個人の価値観に基づいて積極的に内外の多様な人材と繋がることができる。さらに、地域の人を巻き込んでいく人間力がある。成長志向で継続した活動ができる。それで、理論だけではなくて、具体的な実践から学び結果に結びつけることができるということだと思います。