2024年11月26日(火)

<短期連載>ペット業界の舞台裏

2011年12月20日

オークション前の1腹買い、売れ残り目当ての業者も

 実際に私もペットショップ勤務時代に、市場由来の伝染病を経験しましたが、管理をしていた複数の個体が一斉に発病してしまい、終息まで大変な苦労をしました。セリに参加していた業者同士の情報から疑惑の業者の特定を試みましたが、市場側からは通達も発症などの情報開示もまったく得られず、推定の域を出ませんでした。さすがに疑惑の業者は商品が売れなくなり別の市へ鞍替えをしましたが、後日そちらでも同じことが起こり疑惑は確信に変わりました。

 市場は会員制ですので、会員の不利になる情報はなるべく開示しないようです。病気をもらった側はもっと不利になるのですが、伝染病の場合特定が難しい(確認作業をしていないため)というのが理由でした。逆に自分が持ち込んだ時のことも想定し、それ以上は騒がないというのも常識のようです。

 そのようなこともあり、出陳者も売れ残った商品を連れて帰ることを敬遠します。生体市場に連れていくと何を「もらう」か分からないという事実を業者達は常識として理解しているのです。「ワクチンを半分量接種する」、「インターフェロンを1/5量ずつ鼻から吸わせる」、「強めの抗生剤を注射する」など、市場から商品を受け取った直後、病気を持ち帰らないために行う儀式のような対処法を仲間から教えてもらいました。業者それぞれが経験から創意工夫していましたが、効果はあまり期待できませんでした。

 これを逆手にとって、市の申し込み前や売れ残り商品を専門に仕入れする業者も、市場には出入りしています。ブローカーのような業者で、市に参加できない業者の注文や、場合によって市に出入り禁止になった業者の仕入れを行っていました。市の前には腹での交渉(1頭の親から生まれた子供を丸ごと=1腹)、売れ残りは捨て値で交渉、どちらも通常価格よりも安く買いたたくのですが、「持ち帰るよりは」と応じる業者が多いのです。

生産者情報が消費者に届く仕組み作りを

 現在流通している子犬・子猫などの50%以上がこの生体市場を利用していると言われています。生体市場の仕組みが上述の状況で運営されているため、そこから仕入れた個体の親の状態や飼育環境・繁殖者の情報は小売店側でも確認できないのが実情です。購入後届く血統書にわずかに情報が記載されてはいますが、別の問題からこれも確実ではありません。今の流通の仕組みでは消費者が生体のトレーサビリティを知ること自体が出来ないのです。消費者が確認出来ない不確実な商品を目前の情報だけで販売する。言葉は悪いのですが、これが現在のペット業界における生体の主な販売モデルなのかもしれません。

 市場という施設は、大量生産・大量販売を目的としたビジネスにおいて、価格決定や流通の効率化の問題を解消するための優れたモデルだと思います。

 しかしそれは通常の商品に関してであり、“命ある商品”を同じモデルで流通させるのには問題が多くあります。“命ある商品”は購入後も“健康に生き続ける”ことに価値があります。現状のモデルでは精神面や健康面の負担を強いる、病原菌を拡散させる、生産現場や生産者の情報が消費者に伝わらないなど“命ある商品”だからこそ起こる問題が社会的にも指摘されています。その声は無視できないほど広がり、新しい法制度の改正にまでつながりました。多くは、業者側の常識や慣習の範囲での問題です。命を扱う側の責任として、社会的に問題点を指摘されている以上、ビジネスモデルを健全な方向に変える努力がなければ、これからの業界の存続はないと考えます。 (第3回に続く)


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