2024年12月3日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年1月16日

 1月14日に投開票が行われた台湾総統選を現地で取材した。国民党の現職、馬英九総統(61)が最大野党、民主進歩党(民進党)の女性主席、蔡英文氏(55)を破り、再選を果たした。

 馬総統の対中融和路線は一応信任されたが、得票率は馬氏が51.60%、蔡氏が45.63%。かなりの有権者は、馬氏の「対中急接近」にレッドカードを切った。中台関係の安定を求めて馬総統再選を後押しする中国と米国が露骨な選挙介入を行う中、蔡氏は4年前にどん底だった民進党の党勢回復ぶりを内外に示した。

「実利」と「安定」を切り札に追い込まれた蔡英文氏

 総統直接選は李登輝元総統が推進した台湾民主化の柱として1996年に始まり、今回で5回目。台湾の有権者が4年に1度、自ら指導者を選び、民意を内外に示す重要な機会である。得票数は馬氏が689万1139票、蔡氏が609万3578票、親民党の宋楚瑜氏が36万9588票(得票率2.77%)となった。投票率は74.38%で前回を約2ポイント下回った。

 馬氏は①貿易自由化を目指す経済協力枠組み協定(ECFA)の締結、②大量の中国人観光客の受け入れ、③中台間の航空便の増便――など、対中関係の改善、強化を進めてきた。この関係強化は、中台間の1992年合意を基礎とする。それは「一つの中国」の原則を認めるが、中国は「中華人民共和国」、台湾は「中華民国」と各自で解釈できる玉虫色の合意だ。

 馬氏は選挙戦で、中台関係の改善でもたらされた経済的な「実利」を業績として誇示、中台関係の「安定」のため92年合意の重要性を強調した。

 蔡氏は選挙戦で92年合意の存在を否定し、まずは全台湾で広範な議論をして、どんな対中関係を目指すかを論議し「台湾コンセンサス」を形成すべきだと訴えた。また「対中経済で潤うのは大企業や観光業界だけで、一般の労働者に利益は回っていない。貧富の差は広がった。若者の失業率も高い」と馬氏の経済政策を批判した。

 台湾の運輸大手、長栄グループの張栄発総裁は「92年合意がなければ、台湾の生存は難しい」と言明。中国とビジネスを行う台湾経済界の重鎮たちは次々と「踏み絵」のように92年合意と馬総統支持を打ち出し、蔡氏は追い込まれた。

 しかし、馬氏の得票率は前回総統選より約6ポイント低く、蔡氏は前回の民進党候補より4ポイント増やした。同日実施された立法院(国会、定数113)選挙でも、国民党は前回選挙に比べ17減64議席、民進党13増40議席を獲得した。


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