2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年1月16日

 08年の総統選のころ、民進党の支持率がどん底だった00年~08年に総統を務めた民進党の陳水扁氏=収賄罪で服役中=の腐敗したイメージ、対中関係の悪化、経済不振の三重苦に悩んだ。今回の選挙で、蔡氏は党勢の立て直しに成功したことをはっきりと示した。

 台湾の国立政治大の世論調査によれば、自分を「台湾人」と考える人は92年から11年までに右肩上がりで18%から54%に増加。「中国人」と考える人26%から4%に減った。

 中国は馬政権との「国共合作」により、台湾に経済実利を提供し、住民を喜ばせることで大陸支持者を増やそうと努めてきた。こうした中国の「善意」が「統一」という最終目標に向けた懐柔策なのは明らかだ。民進党の党勢回復や台湾人意識の高まりをみれば、この懐柔策が効果を挙げているとは言い難い。

蔡氏敗因は「あいまいな対中政策」

 とはいえ、蔡氏は思うように浮動票層を取り込めず、馬氏との80万票の壁は厚かった。主な敗因は「対中政策のあいまいさ」にあるといわれる。蔡氏は「一つの中国」の原則を否定しつつ、中国との対話をめざす柔軟な路線を打ち出したが、「実現性が低い」「意味不明」と批判された。

 「わたしたちはいつか必ず帰ってくる」。蔡氏は落選後の記者会見で、政権奪還へ起死回生を誓う一方、「民進党は対中政策全体をよく見直さなければならない」と敗因を率直に認めた。

 蔡氏は「敗戦の責任をとって党主席を辞任する」と述べたが、民進党を立て直し、今選挙で善戦したことにより、党内で実力派リーダーの地位を固めた。16年の総統候補として復活する可能性も残っている。

 憲法の3選禁止規定により、馬総統は16年で退任する。後継者としては、若手のホープ朱立倫・新北市長(50)が有力視されている。朱氏は10年11月の同市長選で蔡氏を破った実績を持つ。

 馬総統は「統一せず、独立せず、武力を行使せず」の3つのノーを掲げて、2期目も中国との政治問題の協議は急がない方針だ。しかし、中国は台湾に経済実利を与えた見返りとして、平和協定の締結など、統一に向けたステップを求めてくるかもしれない。馬氏自身が退任前に歴史に名を残そうと対中交渉の駒を進める可能性もある。

 そうなると「中国にのみこまれる」との危機感がさらに強まり、民進党支持は増えるだろう。欧州危機などで台湾経済が低迷すれば、国民党政権への風当たりも強まる。

 民進党が悲願の政権奪還を果たすには、党是である「台湾ナショナリズム」を維持しながら、いかにして対中和解を進めるのか、具体的な青写真を示す必要があろう。40数%の基礎票に加え、浮動票のヤマが大きく動かなければ、民進党候補の当選は難しい。

米中の干渉とアンフェアな国民党の選挙戦術

 中国はかつてのようなミサイル発射やどう喝はやめたが、今回も陰に陽に馬氏支援に動いた。胡錦濤国家主席は昨年11月、米ハワイで、台湾の連戦元副総統と会談し「92年合意は中台対話を発展させるために必要な前提」「中台関係の平和的発展の重要な基礎」と発言した。胡主席は総統選の約2週前の元日演説でも92年合意の重要性を強調した。

 米国の元在台協会台北事務所長(駐台湾大使に総統)のダグラス・バード氏は投票の2日前、国民党系テレビ局のインタビューに応じ92年合意支持を表明して馬氏にエールを送った。在台協会はバード氏の「個人的な見解」と釈明したが、民進党は強く反発した。

 元独裁政党である国民党は資金力や組織力が大きく、有利な選挙戦を展開。資金不足のため「子ブタの貯金箱運動」を展開して庶民の寄付に頼る蔡氏とは対称的だった。


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