2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月10日

 6月28日―29日、大阪でG20サミットが開催された。多国間の重要な国際会議であり、主要国の首脳が集まるということで、世界の注目を浴びる。が、時に、G20そのものよりも、そこで繰り広げられる首脳外交が重要なことがある。今回、国際社会が注視したのが、世界第1と第2の経済大国である米国と中国の首脳会談だった。

(Baris-Ozer/TANGOART/Nuno Tendais/iStock)

 米中貿易戦争は、昨年から本格的に始まった。関税に報復関税と、関税のかけ合いが3回続いた。そこで、米国が4回目に報復関税をかけるのに、中国が待ったをかけて3か月延期させたのが、昨年のブエノスアイレスでのG20の際に行われた米中首脳会談だった。

 今年に入り、北京とワシントンと交互に米中貿易閣僚級会議が開催され、中国が米国から大量の大豆を輸入する等で、当初は、3か月の期限の前には、大筋の合意がなされ、フロリダで米中首脳会談が行われ大きな取引が発表されるのではないかとの観測もあった。が、ファーウェイ問題等もあり、貿易協議は難航し、結局、米中サミットは、延期が相次ぎ、今回のG20大阪が、その開催場所となった。

 トランプ大統領と習近平共産党総書記は、歩み寄った。トランプにとっては、対中貿易赤字を少しでも減らすこと、すなわち米国産のものを中国に購入してもらうのが主な目的である。来年の大統領選挙への出馬も正式に発表したので、後にひけない。習近平は、米国が妥協したとのイメージを作り出し、強い中国を示して面子を保ちたい。特に、今年は、中華人民共和国の建国70周年。10月1日には大々的な軍事パレードを計画しているらしい。

 結局、米国が追加関税をかけると圧力をかけていたものは延期となり、米国部品のファーウェイへの供給は安全保障にかかわらなければ可能となった。こうして、今回の大阪での米中首脳会談によって、「貿易戦争」は、再び一時停戦となった。貿易協議を実務者間で再開することになり、再度やり直しのリセットがなされたということだ。

 G20の機会に、日中首脳会談及び夕食会も開催された。日中間には、尖閣諸島や人権問題など様々な問題があるが、経済及び人的交流を拡大する方向で合意がなされた模様だ。来春には、習近平国家主席が国賓として日本を訪問する予定である。

 ここで、改めて、中国の世界における影響力とそれへの対処について考えておきたい。

 中国が大きな経済的影響力を背景として、世界的影響力を強めてきているのは自然なことであるが、それが、自由な市場、法の支配、言論の自由などの基本的人権や、民主主義の諸制度に悪影響を及ぼす場合には、対抗していくべきであろう。 

 ソ連との冷戦においては、イデオロギーの争いが大きな位置を占め、それへの関心も強かったが、中国との関係では、中国が共産主義を奉じているのかもはっきりせず、イデオロギー上の対立はあまり関心を引いていない。しかし、権威主義と反自由民主主義はやはりイデオロギー上の敵という認識で対抗して行く必要がある。 

 中国は、自己の影響力強化のために様々なことをしている。共産党は唯物論であるが、人間の頭に影響力を与えることを重視する。メディアの買収など情報空間での影響力強化を狙うのは、共産党にとっては DNA に組み込まれている戦術・戦略である。これには相当な注意を払うべきであろう。 

 一度、東南アジアの人に、日本の東南アジアでの影響力は中国には全くかなわない、華僑の存在だけで、勝負あったということになる、と言われたことがある。日本の海外広報強化などの必要もあるが、我が国における中国の影響力強化工作の実態を調査するとともに、アジア諸国での中国の影響力強化工作についても、それなりに知識を得ておく必要があると思われる。華僑のネットワークで何をやっているのかなどもよく調べておく必要がある。

  
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