2022年8月14日(日)

Wedge REPORT

2019年7月12日

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黒井克行 (くろい・かつゆき)

ノンフィクション作家

1958年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家。人物ドキュメントやスポーツ全般にわたって執筆活動を展開。主な著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『男の引き際』(新潮新書)、『高橋尚子 夢はきっとかなう』(学研)、『日野原新老人野球団』(幻冬舎)、『指導者の条件』(新潮新書)、『ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ』(木楽舎)他多数。

音や触覚で〝観戦〟、映像との組み合わせも

 四角の面で捉えてきた観戦の常識を打ち破る技術もある。複数台の4Kカメラの映像をシームレスに合成する技術により、8Kを超える高精細かつ超ワイド映像が実現できるのだ。実際の観客席から観戦しているかのようで、とりわけヨットの観戦体験においては視野が横長の超ワイドに及ぶので実に迫力あるサラウンド映像を楽しむことができた。

 他、スポーツは視覚だけで楽しむものではないことを教えられたのが、空間の任意の場所に音場を作り出す技術を用いた音によるスポーツ観戦の創造だ。視覚障がいをもつ選手同士がボールを投げ合い、音を頼りにゴールを守る「ゴールボール」での観戦体験をしたが、音響空間が再現された中でのボールがダイナミックに移動する音や選手が機敏に反応する音など、視覚にまったく頼ることのないゴールボール選手の感覚に寄り添うことで、スポーツパフォーマンスにおける聴覚の重要性をあらためて認識させられた。と同時に、人間の可能性も教えられた。

手でプレーの振動を感じることができる

 スポーツ観戦はいうまでもなく観る側とプレーする側との間に距離がある。だから観る側は触覚と無縁なことは半ば常識で、せいぜい手に汗握るくらいがそれに該当するのだろうが、この技術は新しいスポーツ観戦のあり方を提案してくれた。暗闇の中、テニスコートに見立てたミニテーブル板に手を置き、そこに伝わる振動のみで障がいの有無に関わらずテニスを楽しむことができるのだ。振動がボールの強弱と位置を示し、それを触覚を通じてプレーを楽しむというものである。

 またラグビーでの場合は、映像と振動を組み合わせることでより迫力を感じられる。ラグビーボールに見立てた半透明の楕円球の中で赤と青の明りが試合の状況によって点滅し振動も起こす仕掛けが小道具だ。つまり、この楕円球を抱えながら映像を観るのだが、振動の強弱や色の点滅がプレー内容を表現し教えてくれる。たとえば、振動の強弱で反則やスクラム、青が点滅している時は左サイドのチームがボールを支配しているといった具合だ。視覚に触覚が加わることでこれまでに感じたことのない臨場感が演出されるのだ。

ラグビーボールに見立てた球による振動の強弱や色の点滅がプレー内容を表現し、これまでにない臨場感を与える

 NTTはこのようにこれまでのスポーツの伝え方を根本から捉え直し、さまざまな技術を用いてスポーツ観戦の再創造を試みている。

 2020年の東京オリンピックでは339種目、パラリンピックでは540種目の競技が用意されている。これらの技術が大会で実用化された時、場外戦でこれまでの常識にとらわれない観戦シーンが生まれる。

 たとえば、マラソンが超ワイド映像で観るとなるとランナー同士の距離感がわかり、ゴールシーンが近づくにつれワクワクドキドキだろう。ボクシングに触覚を取り入れたら、パンチにノックアウトされるのだろうか?

 チケットの行方は気になるところだが、スポーツ観戦の新しいテクノロジーにも目が離せなくなった。

  
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