2024年7月15日(月)

Wedge REPORT

2012年1月25日

 質問は期せずして、筆者自身内心持ち込んだ問いでもあった。「いまの『この』海上自衛隊で、実戦を戦えると思いますか」という……。

給油してくれた米艦に向かって感謝と友情示すため音楽隊がかしま右舷で演奏中

 面立ちに幼さを残した若者たちは皆、広島県江田島の幹部候補生学校をこの3月に出て任官したばかり。出身大学別では一般大卒が半数以上を占める。女性も少なくない。

 質問したのは防衛大学校卒の男子で、「この」という指示連体詞に彼は様々な意味を込めていた。

 忖度するに、海自はシツケや形式ばかり重んじるけれど、しょせんは弾雨をくぐりそうもない似非(えせ)海軍ではないか。命を的に祖国を守るのが軍人ならば、忠誠を捧げる対象が必要だ。それは何か、誰もが口を濁すではないか、といったような。

実戦を戦えるかの問い

「やれる」と答えた

かしま左舷。甲板員たちが給油パイプ接続作業中

 自分の中に答えを探り咄嗟に出てきた言葉は「立派にやれると思う。訓練の延長上で」だった。艦隊を去って時を経た今も、答えを変えなくてはならないとは思わない。

 パナマ運河入峡の前、コロンという地の沖合に初めて投錨したときに見た光景がある。錨を下ろす前に、測鉛なるものを投げ入れる。

 着底した鉛の塊を引き揚げ、付着した海底の泥質を見る。錨鎖の嚙み込み具合に見当をつけるためだ。

 砂泥であった。すると今しがた測鉛を上手に縦回転させ投じ入れた胴衣に赤ヘルメットの若者は、右舷から張り出た立ち台で艦橋へ向き直り、朗々たる音声(おんじょう)を張り上げた─「でいしーつ、さでーい」。

 豆腐屋の売り声を思わせるどこかひなびた節回しは、旧海軍以来綿々と引き継がれた伝統の音調という。重い錨や綱を扱う運用係・甲板作業員の中から、選ばれた者が担当する。その彼の、恥ずかしげにも晴れがましそうな表情を思い出す。

パナマ運河に入る。狭い。両舷からワイヤを取った地上の独特な気動車が牽引する。このクルマ、日本製と聞いて乗員喜ぶ

 同じ頃、翌日の入港を控え、「かしま」飛行甲板では防錆作業に勤しむ一群の男女があった。

 航海中についた錆を、やすりで削ぎ落としている。「これをやらずにペンキの上塗りをすると、中から腐るんです」。まだ若い女性の科員がそう教えてくれた。

 辺りに命令を出す士官はいない。見られていようがいまいが、彼らはそこで大汗を流しつつ、わずかな錆を見落とすまいとしていた。


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