2024年7月16日(火)

赤坂英一の野球丸

2019年7月17日

「使われる側」の意思を反映した制度

 これだけ活発にトレードが行われているのなら現役ドラフトは必要ないのではないか、という声も経営者側にはある。ただし、こういうトレードはあくまで球団や首脳陣など「使う側」の思惑によって進められる。選手会の目指す現役ドラフトは他球団に働き場所を求めている選手、つまり「使われる側」の意思を反映した制度なのだ。これが実現し、移籍が盛んになれば、プロ野球にもまた新たな興味と見どころが増えるだろう。

 いい例が、最近のトレードで巨人から日本ハムへ移籍した宇佐見である。彼は昨季まで巨人の正捕手候補と期待されながら、炭谷の加入で出番を失っていた。移籍した日本ハムは清水優心、鶴岡慎也、石川亮ら捕手を固定できていないチーム事情から、すぐに宇佐見を捕手や指名打者でスタメンに抜擢。宇佐見も期待に応えて初打席初安打をマークし、新天地で順調なスタートを切っている。

 こうした移籍組の中から、ひとりでも多くの選手が活躍し、ブレークすれば、それぞれのチームのファンも温かい拍手と声援を送ることだろう。自分の働き場所で様々な不満に耐え、いつかは自分も人生で光り輝きたいと願っているファンにとって、彼らのように元の職場で埋もれていた選手の勇姿は、スター選手を見るのとはまた違った楽しみと元気を与えてくれるはずだから。

 ちなみに、プロ野球では過去にも2度同様の制度が導入されているが、いずれも短期間で消滅した。最初の前例は1970~72年に行われた「トレード会議」、その次は90~91年に開催された「セレクション会議」である。

 とくに、後者は各球団がリストアップした選手を非公開としたため、当初の目的と裏腹に「選手を出し惜しみしている球団がある」「戦力外同然の選手しか市場に出ていない」など、様々な憶測や批判を呼んだ。某球団のリストの中身を他球団の監督が記者との雑談で漏らし、一部マスコミから「機密漏洩」と報じられる騒動も発生。ダークなイメージを残して立ち消えとなっている。

 今度こそは、明るく公正な現役ドラフトの確立を望みたい。野球のライバル競技、サッカーJリーグは球団間のレンタル移籍など、出場機会に恵まれない選手の救済措置を設けている。私が中学、高校野球を取材していると、「日本はプロに入りたくてもチームを間違えたら飼い殺しになるから」という子供や親御さんの声を耳にすることもしばしばだ。

 それでなくても野球人口の減少が叫ばれるようになって久しい。プロ野球の未来のためにも、選手会、NPB、12球団で充実した現役ドラフトを創設し、長続きのするシステムにしてほしい。

  
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