2024年4月20日(土)

赤坂英一の野球丸

2019年7月17日

 いま、労組プロ野球選手会が日本野球機構(NPB)と12球団に対し、「現役ドラフト」の導入を訴えていることをご存知だろうか。

 通常のドラフト会議ではアマチュアの選手を12球団が指名するが、これは各球団にいる出場機会の少ない選手を他球団が指名する場を設けて、移籍先で出場機会が増えるようにするための制度である。サラリーマンの世界に例えるなら、〝企業内失業者及び低所得者救済制度〟と言ってもいい。

(bankrx/gettyimages)

 オールスター第1戦が行われた今月12日には、試合前に東京都内のホテルで選手会臨時総会が開催され、炭谷銀仁朗会長(巨人)をはじめ、12球団の選手会長・副会長36人が集結。現役ドラフトの導入に向けて、NPB側から前向きな回答と具体案が示されたことが明らかにされた。

 選手会が現役ドラフト新設を最初に訴えたのは2017年で、12球団の選手会に導入の賛否を問う意識調査を実施。結果、ほとんどの賛同を得て、翌18年にNPBとの事務折衝で現役ドラフト導入を提唱した。これに対し、NPB選手関係委員会委員長・谷本修氏(阪神球団本部長)は、「選手会に具体案があれば検討する」と回答。その後、両者の間で協議と交渉が進められてきた。

 今年1月の事務折衝には選手代表の一員として巨人・丸佳浩、西武・秋山翔吾が初めて出席。このとき、巨人にFA移籍したばかりだった丸はこう語っている。

 「実力の世界だから、レギュラーは自分の力でつかみ取るものです。それでもチーム事情によって、なかなかチャンスをもらえないという現実もあります。ぼく自身、二軍の選手と、現役ドラフトがあったらいい、と話していました。(NPBには)そういうことを伝えさせてもらいました」

 選手会は先に、リストアップの方法などを明記した「現役ドラフト」の具体案をNPBと12球団経営者側に提出。NPBは今月1日の12球団代表者による実行委員会で選手会側の提案を諮り、「12球団で合意できるような案を作っていきたい」(前出・谷本委員長)と話していた。その具体案が初めて12球団の選手会役員たちに示されたのが、12日の臨時総会だったのである。

 具体案の中身は明らかにされていないが、選手会が目指しているのはアメリカ大リーグ(MLB)の「ルール5(MLB規約第5条)ドラフト」と言われる。これはメジャー契約40人枠(エクスパンデッド・ロースター)に入っていない選手で、18歳以下入団で在籍5年以上、19歳以上入団で在籍4年以上の選手を他球団がドラフト指名できるシステムだ。

 これを大雑把に日本に当てはめると、高卒5年以上、大卒・社会人4年以上。出場選手登録日数に一定のラインを設定して、それを下回る選手を現役ドラフトの対象とする、というリストアップの方法が考えられる。

 なお、MLBの「ルール5ドラフト」では、指名選手を獲得した球団は選手の旧所属球団に10万ドル(約1080万円)を支払うことが義務づけられている。また、獲得選手を翌年のシーズン全期間でベンチ入り25人枠(アクティブ・ロースター)に登録しなければならない。

 一見、経営者側が二の足を踏みそうな条件ながら、一定の成果は上がっている。過去には、この制度でサイ・ヤング賞投手となったヨハン・サンタナ、シルバースラッガー賞を受賞したダン・アグラ、数々のスキャンダルからカムバックを果たしたジョシュ・ハミルトンなど、見事に復活を遂げ、脚光を浴びた選手も多い。

 この「ルール5ドラフト」が開催されるのは毎年12月のウインターミーティング期間中で、指名の順番は完全ウエーバー制。毎年このドラフトが近づくとファンやマスコミが「今年の目玉候補」を予想して、さらにMLB公式サイトでライブ配信される。それだけ、アメリカでは定着、かつ浸透している制度なのだ。韓国プロ野球KBOリーグでもこれを導入し、2年置きに実施している。

 そうした現役ドラフト論議が活発になってきたからかどうか、今年はシーズン中のトレードが多い。今月31日の補強期限を控えて、西武、ソフトバンク、ヤクルトを除く9球団の間で様々な〝商談〟が成立した。中でも、パ・リーグでは楽天が3件、セ・リーグでは巨人が2件と、久しぶりの優勝を目指す球団の積極的な〝緊急補強〟が目立つ。

 以下に、主なケースを挙げてみよう。

○楽天・古川侑利(投手・高卒6年目・23歳)⇆巨人・和田恋(外野手・高卒6年目・23歳)

○楽天・三好匠(内野手・高卒8年目・26歳)⇆広島・下水流昂(外野手・社会人7年目・31歳)

○楽天・浜矢広大(投手・社会人6年目・26歳)⇆DeNA・熊原健人(投手・大卒4年目・25歳)

○日本ハム・鍵谷陽平(投手・大卒7年目・28歳)+藤岡貴裕(投手・大卒8年目・30歳)⇆巨人・吉川光夫(投手・高卒13年目・31歳)+宇佐見真吾(捕手・大卒4年目・26歳)

○オリックス・松葉貴大(投手・大卒7年目・28歳)+武田健吾(外野手・高卒7年目・25歳)⇆中日・松井雅人(捕手・大卒10年目・31歳)+松井佑介(外野手・大卒10年目・32歳)

○ロッテ・高野圭佑(投手・社会人4年目・27歳)⇆阪神・石崎剛(投手・社会人5年目・28歳)

 こうして見ると、大半の選手はプロ10年目以内、年齢は20代から30代に入ったばかりで、旧所属球団で一軍の出場機会に恵まれていなかった。つまり、もし現役ドラフトがMLBに近い形で実施されたらリストアップされそうな選手がほとんどである。


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