2024年12月2日(月)

さよなら「貧農史観」

2012年2月17日

小規模農家が農地を手放さないから「規模拡大が進まない」との議論がある。
だが、現実には、経営力のある農家に、農地は確実に集まりつつある。
“日本版コルホーズ”ともいえる政策に税金を投じるのはやめるべき時にきている。

 農業経済学者や農林水産省の役人、政治家たちが日本の農業を語る場合、盛んに喧伝する決まり文句がある。「日本の農業の耕作規模は小さい」ということだ。背景には、小規模農家が農地を手放さないから規模拡大が困難との認識がある。しかし、これは大きな誤解である。経営者階層でみれば規模の拡大は確実に進んでいるのだ。

十勝の平均耕地面積はEUの倍

 日本の平均経営耕地面積は2.19ヘクタール。それに対して米国が約180ヘクタール、EUは約17ヘクタール、さらに豪州は3000ヘクタールを超えている。我が国の耕作規模の小ささが敗北主義にまみれる日本の農業界の言い訳になっている。

 だが、そもそもこの比較は、他の先進国が畑作や酪農中心であることを無視している。日本の代表的畑作地帯である北海道の十勝地域の平均耕地面積は38.32ヘクタール。つまり、EUの平均規模の倍以上に達しているのである。

 さらに日本の平均耕地面積の数値は家庭菜園的な小規模農家を含めたものである。2010年の世界農林業センサスによれば、販売農家の中で販売金額が1000万円を超す農家は戸数ベースで7%程度にすぎない。しかし、7%の農家の販売金額が全体の約6割を占めているのである。

 耕作面積については、府県のコメ専業の農家なら夫婦2人の家族経営で25~30ヘクタール規模の農家を探し出すことは難しいことではない。だが、その規模で頭打ちとなる。これは何も、農業関係者らが語る農地の購入や貸借が困難だからとの理由ではない。移植作業体系ゆえの労働力や機械力の制約があるからである。

 また、小規模農家が農地転用を期待しているために農地の移動が少ないという議論もあるが、そんな時代でもない。高齢農家が農業を止めないのは面白いからだ。しかし、お金のかかる趣味であり、それを続けようという次世代は限られる。むしろバラマキの戸別所得補償制度や、我が国の農業界がこぞって推進し、失敗を繰り返してきた農場の“共同化”(今では集落営農組織)への優遇政策が、農業の大規模化や産業化を阻んでいる。

 農水省によれば11年2月1日現在、全国に1万4643カ所の集落営農組織があり、約55万戸が参加している。総面積は約50万ヘクタール。ひとつの組織を構成する農家数の平均は38戸で約34ヘクタールの農地を集積している。農産物販売収入は1000万円未満が37%、3000万円未満が約73%、5000万円以上は約12%にすぎない。約34ヘクタールという平均面積で、しかも様々な交付金を受けていることを鑑みれば、その金額はいかにも少ない。優良な経営成果を上げる組織も少数あるが、多くは各種交付金受給の受け皿として作られたものと言える。

 集落営農組織は作業だけでなく、共同経営を目指すものであり、現代の日本にいわばコルホーズを作るようなものである。そもそも多くの場合、行政がお膳立てした制度に便乗しているために、集落のまとめ役はいても、事業を展開させる意欲や能力を持った“経営者が不在”というケースがほとんどである。集落営農組織を作り、形だけの規模拡大で農業経営が向上すると考えること自体、馬鹿げていないか。しかも集落営農組織を作るために、少なからず農業経営者が農地の“貸し剥がし”を受けているのが実態なのである。


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