2022年7月5日(火)

さよなら「貧農史観」

2012年2月17日

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昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

農地集約は自然と進む

 農地の集積が困難だとの議論に対しては、以下の橋本茂さん(60歳)の話がもっとも説得力を持つ。橋本さんは千葉県柏市で後継者の英介さん(37歳)とともに、80ヘクタールの借地での稲麦作に加え、20ヘクタールの農作業請負で約8000万円を売り上げる農家だ。橋本さんの住む柏市の旧沼南町地区は上野から1時間ほどの東京近郊地帯だが、手賀沼の下流域にある純農村の水田地帯だ。耕作する農地は自宅を中心に周辺集落を含めて約200ヘクタールの水田が広がるエリアにある。地域で30代の農業後継者は英介さんただ一人。彼の次に若いのは55歳だそうだ。乾燥調製施設を作って作業請負を始めた約20年前の規模はたった30ヘクタール程度だった。橋本さんは言う。

 「かつては年金で機械を買い農業をする人もいた。だが、10年ほど前からコンバインが壊れると収穫・乾燥を委託され、体が動かなくなると耕作を放棄するか土地を借りてくれと頼む人もでてきた。あと5年もすれば我々が何もしなくても200ヘクタール規模になります。これからTPP(環太平洋経済連携協定)対策費といったものが支給されるのでしょうが、戸別所得補償や土地改良にこれ以上無駄な税金を使わないで欲しい。200ヘクタール規模の作業ができる乾燥調製施設や、借りた農地の区画を広げたり、暗渠(地下水路)を作り替えるための機械設備投資に対して補助してくれる方が、税金の使い方としては、はるかに安上がりです。あとは自分たちでやるから余計なことは必要ありません」

 農地の移動にもマーケットメカニズムが働いている。橋本さんに限らずどこの地域でも地代を払える経営者に農地は集積されている。農業経営者たちも地域の農地を守ろうとの意志を持っている。学者や役人たちが問題視する農地の分散化についても、橋本さんは「一番遠い水田でも機械をトラックで回送すれば15分程度。何の問題もありません」と言う。

 国が耕作条件を整えてくれるから農業経営が成立するわけではない。所与の条件の中でいかに経営するかを考える能力を持つ者が成功するのだ。農業も経営者の能力によってこそ成立している。農業構造改革のために肝心なことは農業経営者の邪魔をしないことなのである。

◆WEDGE2012年2月号より


 




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