
『「蔦重版」の世界 江戸庶民は何に熱中したか』(NHK出版新書)。すずき・としゆき。1956年、北海道生まれ。中央大学文学部教授。専門は日本近世文学、書籍文化史。中央大学文学部国文学専攻卒業、同大学大学院博士課程単位取得満期退学。著書に『本の江戸文化講義』(KADOKAWA)、『蔦屋重三郎』(平凡社新書)、『書籍流通史料論 序説』(勉誠出版)など。2005年日本出版学会賞、2008年ゲスナー賞、2013年岩瀬弥助記念書物文化賞受賞、2019年『近世読者とそのゆくえ』(平凡社)でやまなし文学賞受賞。
現在NHKで放映中の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、「江戸のメディア王」と呼ばれる書物の版元・蔦屋重三郎(以下蔦重)の波乱に満ちた生涯を描いている。『「蔦重版」の世界 江戸庶民は何に熱中したか』(NHK出版新書)は、ドラマの考証者を務めている中央大学教授・鈴木俊幸さんが、蔦重が残した80点余りの出版物から、蔦重の発想とその歩み、江戸文化に与えた影響まで読み解こうとした一冊である。
―― 蔦重研究の第一人者の鈴木さんが蔦重に関心を持ったのは、本書によれば卒論のテーマにと思った大学3年生の時とあります。どうして蔦重を選んだのですか?
「古本屋巡りが好きで、江戸・天明期の狂歌や戯作にも興味があったんですが、個々の作者の作品や人生を追いかけるのはどうも性に合わない。そこで舞台の裏で動いている人、動かしている人の方に関心が移ったんです」
一昨年までは静かな研究者生活だったという。ところが、NHKから蔦重を主人公にしたドラマ作りの打診があり、昨年5月くらいにその撮影が開始されるととたんに忙しくなった。頻繁にNHKから問い合わせがあり、今年ドラマが放映されると講演の依頼も相次いだ。
ただし、蔦重本人については「今も不明のことが多い」と言う。
「吉原生まれ吉原育ちですが、両親のことも子ども時代もよくわかりません」
―― 吉原の引き手茶屋主人の駿河屋市右衛門が確か、蔦重の叔父でしたよね?
「ええ、たぶん母親の兄弟です。彼が吉原の実力者で甥の蔦重を何かにつけ支援してくれた。ですからドラマのように、殴ったり階段から突き落としたり、あんなことしません(笑)。とても可愛がったはずです」