2025年1月9日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2024年12月7日

『ドラマで読む韓国 なぜ主人公は復讐を遂げるのか』(NHK出版新書)。金光英美。翻訳家。1971年生まれ。清泉女子大学卒業後、広告代理店勤務を経て韓国に渡る。以来、30年近くソウル在住。大手配信サイトで提供される人気話題作をはじめ、数多くのドラマ・映画の字幕翻訳を手掛ける。著書に『ためぐち韓国語』(四方田犬彦との共著、平凡社新書)、『いますぐ使える! 韓国語ネイティブ単語集』(「ヨンシル」名義、扶桑社)、訳書に『グッドライフ』(小学館)、『殺人の品格』(ともに扶桑社)など。

『ドラマで読む韓国 なぜ主人公は復讐を遂げるのか』(NHK出版新書)は、韓国のソウルに1996年以降30年近く在住し、韓国ドラマや映画の字幕翻訳を手がけてきた金光英実さんが、ドラマの背景にある「韓国の素顔」に迫った本である。

「前書きでは、キラキラした表の韓国ではなく、見えない部分、特に『韓国人の心の闇』に焦点を当てた、と記されていますが、読者の反響はいかがですか?」

「全然知らなかった、ストーリーからはわからなかった、モデルとなった事件の裏事情を知れてよかった、とか単に、怖い、とか。特に韓国ファンだった女性の反響が大きいですね。韓国の居住者なら誰でも知っていることを書いただけなんですけどね。私自身にとっては、ごく普通のことばかりというか」

 著者の金光さんは、予想以上の反響にいささか驚いている様子だった。

なぜ、韓国ドラマは世界で支持されるのか?

 現在、韓国産のドラマや映画は世界を席巻している、と言っても過言ではない。

 金光さんによれば、初期の代表作は『愛が何だ』(1991年公開、日本では未公開)、家父長制家族をコミカルに描いたドラマだ。次の成長期が、日本で大ブレイクした『冬のソナタ』(2002)でヨン様とジウ姫のラブロマンスである。次いで拡大期と呼べるのが、ネトフリなどで世界的話題作となった『愛の不時着』(2019)や『梨泰院クラス』(20)。

 そして、2019年に米アカデミー賞の作品賞や監督賞など4部門を獲得した映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)の大躍進があり、世界的大ヒットのサバイバル劇『イカゲーム』(21)以降は、話題作を提供する量産体制がほぼ常態化した感さえある。

 いったいなぜ、韓国ドラマだけが世界中でこのように受け容れられたのか。

 本書では、国の後押し(国家戦略産業化)やコンテンツの面白さ(脚本や演技の激しい競争)の他に、韓国の「何もかもが日本の10倍も激しい」文化的な土壌を指摘している。感情の起伏などが過激という土台がある故に、喜怒哀楽が鮮明となり、物語の演劇性がより増すのだ。

財閥(チェボル)の存在

 そんな文化的土壌を形成する社会要因の一つが財閥(チェボル)の存在である。

「金光さんは『韓国人の日常は財閥に支配されている』と書かれていますね?」

「はい。新大統領が就任すると、まず財閥のトップらと会談します。政治は大統領中心ですが、経済は財閥が動かしていますから」

 サムスンやLG(電子、家電など)、現代(車)、LGやSK(運輸)、ロッテ(コンビニなど)、韓進グループ(航空)……。

 身の回りのアレコレはほとんど財閥系企業が運営している。しかし階級社会なので、財閥の一員になるのは庶民にとってはまず不可能。そこで財閥に対する憧れと嫉妬が生まれる。

『愛の不時着』は、財閥令嬢のパラグライダーが北朝鮮に不時着する場面からストーリーが始まるし、『財閥家の末息子』(22)は、財閥一家に殺された男が、財閥の末息子に生まれ変わって復讐を果たすドラマだ。


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