2024年12月22日(日)

赤坂英一の野球丸

2019年8月28日

 球数制限、猛暑対策、大会日程など、今年もまた甲子園で様々な議論を巻き起こして、第101回高校野球選手権大会が幕を閉じた。その余韻もまだ冷めやらぬ中、9月には高野連の「投手の障害予防に関する有識者会議」が開催され、改めて投手の投球過多に関する検証と討論会が行われる。

 この有識者会議は元横浜高監督・渡辺元智氏、現早大監督・小宮山悟氏らが招集されて今年4月から発足。5月に1回目、7月に2回目の会合が持たれ、9月の3回目、11月の4回目の会議を経て、来年以降のための改善案が高野連に提出される。

(DeanHammel/gettyimages)

 会議では球数制限に反対する関係者や指導者も発言するが、現在の情勢でどれだけ賛同を得ることができるか。スポーツ庁・鈴木大地長官が6月にこの問題に触れ、「高校野球も新しい時代に対応して変わっていくべき」(東洋経済オンライン、6月29日配信)などと発言しており、球数制限が新ルールとして明文化される公算が高い。

 この球数制限、現時点での見通しでは昨年新潟県高野連が提唱した「1試合100球」ではなく、例えば「1週間及び1大会(4~5試合)500球」という幅を持たせた形になりそうだという。この形式なら監督もトーナメント戦の日程全体を考慮に入れた投手起用が可能で、早ければ来年3月の選抜大会から導入される。

 恐らく、今後はひとりで1大会を投げ抜くエースが甲子園に現れることはないだろう。昨年、秋田県大会で636球、甲子園での第100回選手権大会で881球と、計1517球を投げた金足農・吉田輝星(現日本ハム)が最後の〝ひとりエース〟になるはずだ。

 今夏の甲子園に参加した高校も、近い将来の球数制限導入を見越してか、部員数の多い強豪や古豪ほど複数の先発、リリーフをそろえている高校が目立った。例えば15年ぶり23度目出場の広島商は、OBで元広島カープ捕手の臨時コーチ、達川光男氏の発案で先発を2人、リリーフを4人ベンチ入りさせ、県大会を完投ゼロで勝ち上がっている。

 その広島商を初戦でくだした岡山学芸館も丹羽淳平、中川響(ひびき)の先発2本柱で臨んでいた。丹羽が一回に顔面をライナー性の打球に直撃され、左頬骨骨折で退場すると、二回から急遽登板した中川が5失点と苦しみながらも130球を投げ抜き、打線が逆転してくれたおかげで勝ち投手になっている。

 ただし、投手の頭数が増えたからエースにかかる負担が減るかと言えば、そう単純ではない。技巧派の土屋大和、力投派の谷幸之助というダブルエース体制で大会に臨み、高校球界きっての〝継投巧者〟としても知られる関東一・米沢貴光監督は、初戦と2戦目とでまったく異なる投手起用を見せた。

 初戦の日本文理戦は先発の土屋が四回までに5失点と打ち込まれたため、五回から谷に交代。シーソーゲームの末に10-6で勝ったから、次の熊本工戦も当然同じ継投でいくのかと思ったら、先発の土屋がまた5点を取られても今度は頑として動かず。とうとう九回まで127球を投げさせて完投させ、5-6で競り勝った。

 試合後、なぜ谷に代えなかったのかと聞かれて、米沢監督はこう答えている。

 「継投も頭にあったんですけど、土屋が少しずつ球をずらしたり、いろいろ工夫をしたりして、非常に粘り強く投げていましたから。その姿を見ているうちに、このゲームは土屋かな、最後までいかせたほうがいいかな、と思ったんです」

 勝負師のカンというやつだろう。こういう感覚は、実際にグラウンドで戦っている人間でないとわからない。

 「谷も一応ブルペンで準備させていましたが、調子が悪いと言うし、野口(洋介・捕手)に聞いても、きょうは土屋でしょう、と言うんで。土屋は我慢強く投げてくれました」

 エースたるもの、チームのためにひとりで投げ切らなければならないときもある。監督にとってもまた、そのエースを最後まで投げさせなければならない試合があるのだ。


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