2024年12月2日(月)

赤坂英一の野球丸

2019年7月31日

(miriam-doerr/gettyimages)

 アメリカ独立リーグのアトランティック・リーグ(ALPB)で、野球の常識を覆しそうな〝歴史的改革〟が行われた。

 10日(日本時間11日)に行われたALPBオールスター・ゲームにおいて、ストライク・ボールの判定に初めてレーダーとコンピュータが使用された。アウト・セーフ、ホームラン・インプレーなど、様々な場面でビデオ判定が行われるようになった中、「これだけは人間の目で判断するべき」と言われてきたストライクゾーンにまで、機械化、ロボット化の波が押し寄せてきたのである。

 この〝ロボット球審〟はデンマークのTRACKMAN社が開発した弾道測定機器「トラックマン」を使ったもの。軍事用レーダーが弾丸を追尾(トラッキング)する機能を野球に応用したシステムだ。トラックマン自体はメジャーリーグ(MLB)30球団が本拠地球場に設置し、日本のプロ野球(NPB)でも広島以外の11球団が導入している。

 トラックマンは打球の速度・角度・飛距離、投球における投手のリリースポイント・球速・回転数と速度(スピン量)、変化の大きさに加え、ホームベース到達時のボールの正確な位置まで計測できる。つまり、これを使えば、どんなに際どいコースでもストライクかボールかが一目瞭然となるのだ。

 ALPBオールスター戦では、このトラックマンが捉えたボールの正確な位置を、球審が身につけたiPhoneで受信。イヤホンを通してストライクかボールかを聞いてからコールを行ったという。ただし、「ワンバウンドでストライクゾーンに収まった球でも(機械的に)ストライクと判定してしまう」「打者のチェックスイング(ハーフスイング)まではジャッジできなかった」といった欠点もあるとAP通信は伝えた。

 アメリカの球史で初めて〝ロボット審判〟を使用した球審ブライアン・デビュルーアー氏は「少し助けてもらっているだけで通常の任務と変わらない。(機械の)助けを受けることで、いつもより仕事がしやすい」とコメント。あくまで人間である自分がジャッジの最終決定権を持っていることを強調した。(Full-Count7月15日配信記事より)

 一方、感想を求められたメジャーリーガーの反応は、「判定が毎回正確ならもっといい試合になる」(CC・サバシア=ヤンキース投手)「僕たちはビデオゲームの選手じゃない。人間の要素は継続するべき」(ジョナサン・ルクロイ=エンゼルス捕手)といまのところは賛否両論のようだ。(同前)

 しかし、この機械化の波がいずれメジャーリーグにも波及するのは確実だ。MLBは以前からALPBと大変密接な関係にあり、今年2月、正式に業務提携契約を結んだことを発表。今回の〝ロボット球審〟導入もMLBの支援と意向によって実現したものだからである。

 この推移を自らアメリカで取材した江戸川大学・神田洋教授は〈文春オンライン〉7月10日配信記事で「ロボット球審が独立リーグで一定の成果を収めれば、次は大リーグ傘下のマイナー、そして大リーグで導入という流れになるだろう」と予測。さらに、この背景にある興味深い現象を紹介している。

 6月4日(日本時間5日)のブルージェイズ戦にヤンキースの田中将大が先発登板したときのこと。MLBの公式サイト速報画面にはストライクゾーンの四角い枠があり、田中がそのほぼ真ん中へ投げた球が球審にボールと判定され、直後の投球で本塁打を被弾した。すると、これを見ていた人がその動画をツイッターにアップして球審を非難。これが次々にリツイートされて炎上したというのだ。

 このジャッジを下した球審は以前からヤンキースファンの評判が悪かったそうだから、問題の動画もいつまでもネット上に残されるだろう。そうした審判が晒し者になる事態を避けるためにも、球審の機械化を急いだほうがいいのかもしれない。

 そして、神田氏の言うようにやがてMLBにも〝ロボット球審〟が登場すれば、いずれは日本プロ野球でも導入が検討されるときがくる。現代の投手は真っ直ぐなら160㎞超、変化球でも140㎞台を当たり前のように計測し、際どいコースをついて、バッターの手元で細かく動かしたりもする。その1球1球を見つめ、判定を下す審判の疲労度は年々増すことはあっても減ることはない。ロボット化はもはや時代の流れのようにも思える。


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