2024年4月27日(土)

“熱視線”ラグビーW杯2019の楽しみ方

2019年10月21日

ラグビーの未来を変えた日本代表

 南アフリカはロッカールームで落ち着きを取り戻し、後半ピッチへ現れた。この修正力が世界のトップチームであり経験の差というものだろう。3分にペナルティゴールを決めると7分と22分にも追加点を挙げ、23分には南アフリカ陣内10m付近のラインアウトモールから日本陣内22m付近までじりじりと押し込み、16番が抜け出て9番に繋いでゴールラインを陥れた。27分にもターンオーバーから一気にトライを奪われ「3-26」と突き放された。この時点で勝負の流れは完全に南アフリカに傾いていた。

 その要因のひとつはスクラムとラインアウトの安定性にある。日本のラインアウトの成功率は62%で13本中5本はスチールされている。スローワーの堀江翔太は南アフリカの高さにプレッシャーを受けたと試合後に語った。またスクラムは要所でプレッシャーを与えるものの、逆に日本のコラプシングからペナルティゴールを狙われ、また前半の入りのようなトライに結びついたシーンも見逃せない。スクラムの要の稲垣啓太は「南アフリカの強みを出させてしまった。いま何かを考えるのはむずかしいですが、ひとつ言えることは南アフリカのパフォーマンスが素晴らしかったということです」と讃えている。

 スクラムハーフの流大は「相手を背走させて空中で競り合ってカオスを作るという部分ではうまくいった。セットピース含めてプレッシャーがすごくて、素晴らしい選手、戦術にやられたと思います」と振り返っている。

試合後に組んだ円陣でリーチ主将は「選手一人ひとりの今後の態度や姿を見せることが大事」と語った(写真・筆者)

 日本がアイルランドやスコットランド戦で見せたような、しぶとく激しく前に出るディフェンスを今回はフィジカルの強い南アフリカが仕掛けてきた。孫子の兵法の一節にある「善く戦う者は人に致して、人に致されず」というものだろうか。日本の両翼はジェイミー・ジョセフヘッドコーチいわく「フェラーリ」である。その二人の選手をしてトライを奪うことができなかった。

 そのひとり福岡堅樹は「自分たちは力を出し切りました。でも南アフリカがそれを上回っていたということです。上にいくチームとまだ差があるのも事実です」。またトライを取り切れなかつたことについては「ディフェンスの厚さを感じました。自分たちはまだ個々の力で取り切ることができていない」と南アフリカとの差を口にした。最終スコアは「3-26」。夢にまで見た決勝トーナメントで厳しい現実を突きつけられた感がある。

 しかし、一大会で歴史的勝利を2度経験し、試合会場のみならずファンゾーンやパブリックビューイング会場、さらにはテレビの視聴率の高さからもわかるように、一気にラグビー熱を高めたことはこの国のラグビーの未来を変えたはずだ。それは日本代表が身を挺し全力で戦っているからだろう。それが人の心を打つからだろう。また、大会を通して「ノーサイド」の精神や「ONE FOR ALL,ALL FOR ONE」「リスペクト」という言葉をよく耳にするようになった。ラグビーワールドカップは11月2日の決勝戦まで続く。

 試合後、リーチ・マイケルキャプテンは「このチームに誇りを持っています。3年間チームを作り続け、勝つために努力を重ねてきた。勝つために全力を尽くしてきた。ファンのみなさんに感謝を申し上げます」と述べ、「前半は何度かチャンスがあったが、南アフリカの方が優れていたので、ものにすることができなかった。南アフリカの健闘を讃えたい。日本代表は新しい歴史を作った。また素晴らしい経験を積んだ。これを生かして日本代表はますます強くなっていきます」と語った。

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「最後の5分で、20点以上の差がついていましたがトップのレベルのチームを相手に最後まであきらめなかった。この誇りは忘れません。私たちはこの誇りを胸に持ってさらに前に進んでいきます。ホームの力を私たちにくれましたみなさんに感謝しています」

 大会を通して身体を張り続けた姫野和樹は「初めてのワールドカップ。本当にいい雰囲気でしたし、日本中がラグビーというスポーツで一つになるというのを感じました。多くの方にスポーツの素晴らしさに触れてもらったことが素直にうれしいと思っています」と笑顔を見せた。

 ヘッドコーチからフェラーリに例えられる松島幸太朗は決勝トーナメントのプレッシャーについて「南アフリカは何度も経験しているので、相手に対するプレッシャーの与え方は向こうが上手だった」と振り返った。

 チームの精神的支柱である田中史朗は、4年前の南アフリカと比べて「スマートなチームになっていました。4年前は力でねじ伏せようというだけのチームだったんですけど、ショットを狙ってきたり、勝ちにこだわるチームになっていたんだなと思いました」。また、「自分が2011年以降思い描いていた絵(日本におけるラグビー文化の定着)が目の前に広がったので、日本ラグビーはここからまた進化していける」と感じていると語っている。

 そして次戦でウェールズと対戦する南アフリカのヨハン・エラスムスヘッドコーチは「日本のみなさん、ファンのみなさん、日本代表はプーAを1位通過で決勝トーナメントに勝ち進みました。誇りを持ってください」と話し日本人や会場での応援に対して謝意を述べて会見を終えた。

 改めて思う。この競技に欠かせないもの、それは誇りとリスペクトと感謝の心だ。それがベースとなってノーサイドの精神に繋がっていく。それを伝えた日本代表の功績は大きい。

  
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