2024年12月22日(日)

変わる農業 変わらぬ農政

2012年4月13日

 変貌する世界情勢の中で、世界の農業政策は大きく変化している。

 第二次世界大戦後の食料難が解消されて以降、世界の農政の主要な関心事項は、「食料余剰」をどのように扱うかであった。だが、国連人口基金が昨年発表した「世界人口白書」によれば、2050年に、世界の人口は90億人を突破するという。

世界の「マクロ農業貿易地図」

 筆者の所属する国際食料農業貿易政策協議会(IPC※)では、今後40年間で食料需要は倍増すると予測している。需要を満たすために世界食糧機関(FAO)は、食料生産を70%増加する必要があるとしている。世界の関心事は、「人類をいかに飢餓から救うか」に焦点が変わりつつあるのだ。

IPCは、GATTウルグアイ・ラウンドの進展をサポートする形で1987年、民間有識者により創設された、一種の国際農政賢人会議である。メンバー数は2011年末現在、39名。北米、南米、EU、アフリカ、アジアと広く分布し、出身分野は政治家、国際機関官僚、主要国官僚、農協幹部、国際的NGO、農業経済学者、シンクタンクなど、多様な分野から構成される。毎年春秋2回、定期的に会合を開催し、会員のマジョリティ意見を集約したコンセンサスペーパーを世界の関係国、国際機関、NGOなどに広く配布し、国際協定などの策定に反映してもらうよう働き掛けている。

 それだけではない。かつてEUでは、高い市場価格により、余剰生産物が発生し、輸出補助金をつけて農産物を安く輸出していた。しかし、20年前の農政改革によって現在では輸出補助金はほとんどなく、将来は全廃されるだろう。米国では、財政赤字削減の波が農業補助金にまで及んでいる。

 世界貿易全体はまだ成長を回復していないが、農産物貿易は着実に成長を続けている現実も見逃せない。

 このようなマクロ農業貿易地図と、世界の農業界に託されている義務を前提にすれば、日本の農政も大きく転換しなければならない時期にある。日本が現在の厚い保護の壁を段階的に縮小し、世界の先進国と歩調をあわせ、世界的な農業生産性向上運動に参加することができれば、将来的にその果実の多くを享受できることになると思う。

 この脈絡で今回は、環太平洋経済連携協定(TPP)について考えてみたい。

国論を二分するTPP議論

 日本は戦後、関税および貿易に関する一般協定(GATT、以下、ガット)、世界貿易機関(WTO)加盟を経て自由貿易にコミットし、その利益を最大限に享受してきた。多国間貿易交渉や日米二国間貿易交渉などに参加し、関税引き下げや輸入数量制限の撤廃なども進めてきた。本質的にTPPはその延長線上にある。  

 多国間交渉といっても二国間交渉の積み重ねの結果となるので、日本にとって最大の相手国が米国になるのは当然の帰結である。また日米安保のパートナーである米国を日本が最優先するのも当然である。


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