これは現在でも変わっていないようだ。民主党政権はTPP問題で、対外的プロパガンダには熱心だが、国内の現場に対して、情報収集や分析の具体的な指示がタイムリーになされていないといえよう。また、労働組合との関係に関心が強く、貿易問題には自民党以上に関心が薄い印象がある。野田政権が果たして国論を分けているTPPに対応できるほどの政治的財産を持っているのか極めて疑問がある。
TPP推進に必要な戸別所得補償制度の改善
日本の農政はこれまで、究極的にグローバルな意味での市場経済化を図る具体的な政策提言はなかった。国際価格と国内価格をリンクする市場経済化は、内外価格差が大きく、財源が確保できないという考えがあるからである。
実は、これに風穴を開けようとしたのが、民主党が提唱した戸別所得補償制度だった。この制度の本来の目的は、FTAの下、関税引き下げにより国内市場価格が下落し、主業農家の所得減少分を補填することである。加えて、国内生産を維持しつつ、生産性向上を実現していくというもので、EUの採用する方式である。
だが、民主党は農業構造改革にメスを入れることもなく、また、肝心の関税引き下げすら実施していない中で、すべての農家に所得補填だけを先行させてしまった。背景には、選挙対策という側面もあろうが、WTOの多国間貿易交渉であるドーハ・ラウンドが中断していることもある。
一方、自民党はバラマキだと切り捨てているが、EUのように、価格支持をやめて農家所得への財政支出を行うという、本来の制度の趣旨を充分に認識して、内容改善を協議するのが本来の役割だと思う。テクニカルな議論ではなく、農政の枠組を抜本的に改革する方向で議論を進展させるべきだ。
日本農政の立ち位置
世界における日本農政は現在、どのような立ち位置にあるのか。
ガット農業交渉ではEC(現EU)の保護主義と途上国が日本を間接的に支援したものの、EUは1992年のマクシャリー改革により、価格支持政策を転換し、市場経済への道を選んだ。また、途上国の中心的勢力であった中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、その他新興経済国のブラジル、インド、ロシアなどもFTA推進路線に転換している。
日本もFTAを積極的に推進してはいるものの、コメなどのセンシティブな農産物については例外扱いを条件としている。換言すればこの条件を受けない相手国とのFTAは締結できないことになる。
以前からWTOのパスカル・ラミー事務局長は、「日本が関税の大幅削減に踏み切らない限り、未来永劫に国際的圧力に晒される」と警告している。
また経済協力開発機構(OECD)のケン・アッシュ局長も「日本が国内的にどのような言い方をするかは自由である。しかし、日本のような国(=経済大国)が、食料安全保障のために自給率向上政策を持ち出しても相手にされないし、持ち出すべきではない。日本は生産性を引き上げることによって国際競争力を高め、その結果として国内供給を増やしていくしか方法はない」と述べている。
農業破れて山河なし
「20世紀の国際貿易はどちらかと言えば単純な二国間貿易だった。しかし、21世紀型貿易は複雑化して多国間となった」
貿易ルールの深化について、ジュネーブ大学院大学のリチャード・ボールドウィン教授はこう語っている。
21世紀型貿易ルールの策定に直線的に取り組もうとしているのがTPPだと言われている。わが国もこのような世界の質的変化に常に意識的に関心を持ち、国内の競争体制の整備に当たらねばならない。