本質的に日本の食料供給は、国産と輸入の両立政策で成り立っているので、世界から隔離されているわけでもなく、もともと密接につながっていることを常に意識する必要がある。日本の農政には、世界への道を開き、成長する世界市場を取り込む戦略も必要である。
良い先例がある。それは保護農政の典型といわれたEUの共通農業政策(CAP)の進化の歴史である。本コラムでも改めて詳述するつもりだが、この政策は包括性と透明性をもって、グローバル化時代に対応するように着実に生産性向上を実現し、価格水準の引き下げを実現している。
最も注目すべきは、農業所得維持のために財政を確保していることである。そのためには国民の農業に対する要求に応える必要がある。例えば、食品の安全性を守る、動物福祉を守る、有機栽培を守るなどである。
一方で農業の国際競争力を向上させるために大規模化、工業化も進め、同時に環境保護的農業にも配慮するという、複合的な要求に折り合いをつけることも必要である。
これらを成功させた過去20年間のEUの農政改革プロセスは大いに見習うべきである。EUが最初から米国、豪州などとスクラッチで競争してきたわけではない。時間を掛けて競争力を向上させてきたのだ。しかも、その目的の核心には、「ヨーロッパを豪州の砂漠のようにはしたくない」という気持がある。
“農業破れて山河なし”という理念は共有できる。多国間貿易交渉でも他国との共闘が復活する可能性もある。TPP参加を見据え、EU型農政の日本版を早急に検討すべきだ。
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