立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年11月27日

»著者プロフィール
著者
閉じる

立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

米中関係は「臨戦状態」に突入する

 トランプ氏は老獪な商人政治家である(参照:拙稿シリーズ『トランプを読み解く』)。彼は諸々の利害関係を天秤にかけることが得意だ。もちろん、米国議会の議員たちも利害関係に疎い輩ではない。「香港人権法案」に関して、上院は全会一致で可決、下院は賛成471票・反対1票という圧倒的賛成多数で可決。これは何を意味するのか。2点ほど注目したいところがある。

 まず、1点目。唯一の反対票は誰が投じたのか、なぜ投じたのか。

 票を投じたのは、ケンタッキー州のトーマス・マッシー議員。マッシー議員はTV取材に、法案の90%に賛成していると強調し、残りの10%、つまり他国への制裁については一貫して反対する姿勢であるため、今回も例外ではないと述べた。マッシー氏は議員のなかでも異端児的な存在で、他国への制裁にはとにかく反対の姿勢に徹しているのも事実である。相手が中国だろうとイランだろうと関係なく。これを考えると、米議会上下両院は「香港人権法案」に対して全会一致という姿勢であったと言っても過言ではない。

 次に、2点目。わずか2日間で上下両院、超党派のほぼ全議員が法案に賛成票を投じたという異例の事態、その裏に何があったのか。

 上院も下院も当然、それぞれ独自の情報委員会や様々な情報チャンネルを有している。香港情勢をもよく把握し、理解していると思われる。つまりそれがすでに緊急事態にまで発展し、最速で法案を可決しなければならないという認識をほぼすべての議員が持っていたということである。

 いくら米国とはいえ、親中派議員はいるはずだろうし、また中国の対米ロビー活動も活発に行われているだろう。中国から様々な形で利益を得ている要人や利益団体の存在も無視できない。そうしたなか、全議員が一致して法案に賛成票を投じたことは何を意味するか。少なくとも、親中派と思われたくない、親中派と思われたらまずいという状況があったのではないか。

 真珠湾攻撃後の米連邦議会に酷似している。当時連邦議会でただ1人の女性議員ジャネット・ランキン氏が対日戦への反対票を投じた。

 これを見ると、米中関係はすでに「戦争状態」、少なくとも「臨戦状態」にあると認識せざるを得ない。米国政界のエリートたちはその行動でこれを示唆してくれたのである。

 中国側の反応を見てみよう。法案可決の一報を受けて、新華社をはじめとする中国の国営メディアはわずか4~5時間の間に30本以上の記事をだし、米国側に猛烈な抗議を行った。特に注目すべきは、中央電視台(CCTV)のニュース番組では、「勿謂言之不預也」という言葉が使われたことだ。「事前に警告しなかったと言わないように」という意味だ。

 この用語は、中国の外交用語であり、一般的に武力使用、あるいは広義的に宣戦布告に先立った最後の重大警告を意味する。歴史上この言葉は1962年の中印国境紛争、1967年の中ソ国境紛争(珍宝島事件・ダマンスキー島事件)、1978年の中越戦争という3度の戦争・武力紛争の前に使われていた。

 ならば、米中のどちらも「臨戦状態」にある現状を認めたことになる。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る