世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年12月4日

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 イエメン情勢は、イランが支援するホーシー派とサウジおよびUAEが支援する反ホーシー派が厳しく対峙しつつ、反ホーシー派内でもサウジが支持するハディ暫定政権とUAEが支援する南部暫定評議会(STC、南部イエメンの独立を目指している)が対立している、というのが基本的な構図である。反ホーシー派内部での対立の激化や、ホーシー派によるとされている9月のサウジ・アラムコ製油施設への攻撃などにより、イエメン情勢は中東のより広範な紛争に拡大する兆しを見せていた。しかし、最近、風向きが若干変わってきた感がある。

(AlexmarPhoto/MikhailMishchenko/iStock / Getty Images Plus)

 第一に、11月5日に、ハディ政権とSTCとの間で、サウジの仲介により、パワーシェアリング(権力分担)の取極めが成立した。第二に、サウジとホーシー派との間で、より幅広い緊張緩和への動きが出始めた。後者について、Foreign Affairs(電子版)の11月11日付け論説‘Peace Is Possible in Yemen’(Longley Alley & Salisbury, Foreign Affairs, November 11, 2019)は 、サウジ・アラムコの施設攻撃がサウジとイランを巻き込む広範な地域紛争に発展するのを恐れたホーシー派内部の穏健派がサウジとの対立緩和を模索し、これに対してサウジ側も好意的な反応を示し国境を挟んでの攻撃を双方で控える状況を生み出し、それが両者の直接的な接触に繋がった、と推測している。論説がホーシー派内の穏健派の存在を指摘しているのは興味深い。このような動きが継続し、国連による和平への調停がうまく機能すればイエメン全体の政治的解決へとつながる可能性がある。

 最近の緊張緩和は、主にサウジによる路線修正によるところが大であろう。これが一時的・短期的な思惑によるものか、或いは長期的な戦略転換によるものかが今後の展開(本格的な和平に発展するか)にとって最も重要なポイントである。

 サウジの姿勢転換の背景としては、米国への同盟国としての信頼低下、UAEの戦線離脱、それに加えて、短期的な要因として、12月11日に予定されているサウジ・アラムコのIPO(株式公開)もあると思われ、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子にとって経済面での最も重要な施策の一つであり、IPOの具体的な条件(特に公開株価算定の基礎となるアラムコの資産価値)を巡って、これまでサウジ・アラムコ側と投資家(特に海外機関投資家)との間で激しい駆け引きが繰り広げられてきた。このIPOをなるべくサウジに有利に、成功裏に行うためには、地域情勢の安定が極めて重要であり、アラムコの施設に対する脅威たりうるホーシー派との対立・緊張関係を緩和する必要がある。9月の製油施設への攻撃は、この点をサウジ指導部に強烈に認識させたものと思われる。

 いずれにせよ、サウジとしては、少なくとも当面は地域的な緊張激化を望んでおらず、イランとの直接対決やイエメンでの軍事作戦は抑制する方向で行動することになる可能性が大きいだろう。従って、この機会は和平への千載一遇のチャンスかも知れないが、サウジがどの程度、反ホーシー派(ハディ政権及びSTC)に影響力を行使でき、同時にホーシー派が和平を受け入れる方向に踏み切るかが焦点である。この点に関連し、先に触れた論説はホーシー派内の現実路線グループの存在に言及しているが、その実情については余り情報がなく、実際のイランとの関係(どの程度イランの支援に依存しているのか、イランの影響力がどの程度あるのか等)や内部の状況は不明であり、同派の出方を予測するのは中々難しいところである。

  
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