世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年12月9日

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 11月27日、トランプ大統領は、漸く香港人権・民主主義法案と催涙弾などの香港売却禁止法案の二つの法案に署名し、これらは法律として正式に成立した。大きな注目を集めたのは前者であるが、12月1日の香港のデモに対して警察側が催涙弾を使用したことを考えると、後者の米国の決定も実質的に重要なものと言えよう。トランプが米中貿易交渉への影響などを心配したことは理解できるが、往生際は悪かった。価値基軸を持った外交というよりも融通無碍の戦術外交の限界と言える。物事の優先順位と決定のタイミングを総合的に考える側近がいないのかもしれない。出来事を主導するよりも出来事に追われているようにも見える。トランプは、拒否した場合の議会のオーバーライド、議会との対立回避(民主党は米墨加貿易協定の承認に傾いている)、11月24日の香港区議会選挙での民主派の圧勝などを考慮し、署名を決断したのだろう。 

(marchmeena29/Bosphorus/iStock / Getty Images Plus)

 11月27日のトランプの署名声明は異例だった。二つの声明が発出され、いずれも極めて短いものである。一つは4文、二番目のものは唯の2文、習近平と住民の敬意から署名する、違いが友好的に解決されることを期待するというものである。トランプが習近平への敬意表明に拘った結果、追加声明が出たのであろう。最初の声明には香港人権・民主主義法案について憲法上の大統領権限に関係する問題があるので、憲法の枠内で実施するとしており、トランプが如何に渋々署名したかが分かる。 

 11月27日付ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、6月に習近平と電話会談を行なった際、トランプは貿易交渉が進展している限り香港の抗議運動を支持するとは言わないと習近平に述べたという。6月末のG20大阪首脳会議の際にもトランプは習近平に同様の約束をしたと言われる。 

 中国は、「内政問題」などへの「深刻な介入」だと激怒している。しかし、一定の人権は最早国際ルールの一部になっていることを認め、それは国際介入の事柄になりうる時代になっていることをそろそろ受け入れる必要があるのではないか。中国が報復措置をとるのかどうかを注視したい。いずれにせよ、香港で強圧手段をとってはならない。

 今後、米国が新法を如何に実施していくかが注目される。法律は、人権蹂躙を犯した官憲に対して入国禁止などの制裁措置をとることを求めるとともに、米国が「一国二制度」が機能していないと判断すれば、貿易やビザなどの優遇扱いをやめること等を規定する。議会は引き続き超党派で監視していくだろう。 

 11月24日に香港区議会選挙が予定通り実施されたことは良かった。結果は予想を遥かに超える民主派の圧勝となった。結果は香港政府、北京にとり大きな誤算だったに違いない。抗議運動側も選挙結果や米国の香港人権法の成立を踏まえて、挑発に乗ることなく自重して民主化を求めていくことが重要となる。話し合いで改革を図る以外に道がないことがますます明らかになっている。しかし林鄭月娥行政長官が、11月26日の記者会見で、行政長官の普通選挙の導入などデモ参加者の要求に応じない、自らの辞任もしないとの考えを述べていることが気になる。中国は香港に隣接する広東省深圳に「危機管理センター」を設け、習近平に毎日報告をあげているという。 

 香港問題解決の糸口は、なかなか見えない。

  
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