11月4日、中国政府は、26項目からなる台湾優遇政策を発表した。それによれば、台湾企業、台湾の個人に、中国人に対するのと同様の待遇を与えるとのことである。中国政府の台湾問題担当機関である国務院台湾事務弁公室は、「台湾同胞を平等に扱うという習近平の約束を示す」措置である、と言っている。
中国共産党にとって、「台湾統一」は依然として彼らの言う「核心的利益」の最右翼に位置している。そのため従来とも中国は台湾に対しては硬軟両様の措置を打ち出して、台湾に揺さぶりをかけてきた。今回出された26項目の優遇策なるものを見ると、約一年半前(2018年2月)に出された31項目の優遇策に近い項目も見られる。
これに対し、台湾政府の報道官は、中国が来年1月の台湾総統選挙において、台湾の対中世論を分断し、蔡英文政権にとって不利に働くようにすることが今回の優遇策の主たる目的であると非難するコメントを出している。これまでの中国の対台湾政策を見れば、このような台湾当局の見方は極めて常識的なものということが出来よう。
中国の対台湾強硬策の常套手段としては、台湾の国際的孤立化を謀るため、台湾との国交断絶を促進したり(キリバス、ソロモン諸島は最近の例)、国際機関から締め出したり、台湾海峡周辺に軍用機や艦船を周回・遊弋させて、台湾を威嚇することなどがある。習近平は台湾とは平和裏に統一したいとしつつも、常にいざとなれば武力の行使を排除せず、と述べて台湾を恫喝してきた。
他方、今回の26項目の優遇策は、上述の通り、台湾の企業、個人を対象に、基本的には中国の企業や個人に与えるのと同等の待遇を台湾の関係者に付与するとするものである。
企業の活動については、次世代通信機器「5G」をはじめ、中国が国を挙げて進めている先端技術の調査研究や民間航空会社、テーマパークなどいくつかの具体的分野を挙げて、台湾の進んだ技術の分野においてともに協力しようと呼びかけている。そして、米中貿易紛争の長期化とともに、台湾企業が中国市場から離脱することのないよう促している。
国務院台湾事務弁公室は、今回の優遇策の中に、中国で雇用されている台湾人は外国において問題が発生した場合には、中国の大使館、領事館の支援を受けることが出来る、との規定を入れた。しかし、このような規定は台湾の企業家や個人にとって果たして「優遇策」と呼べるものだろうか。「台商」と呼ばれる台湾人企業家が、これまで理由もわからないまま、中国において「拘束される」という事態が何度も発生しているが、それらは、中国においてであって、第3国においてではないことを知れば、台湾企業家たちにとっては、この優遇策なるものが何を意味しているのかよくわからないであろう。逆に、このような規定は台湾企業家たちの警戒心を高めるだけに終わるかもしれない。
中国が今回このような優遇策を発表したのは、もともと中台間において準公的と呼んでよい蔡英文政権と中国政府の間での対話のチャネルが開店休業の状況にあることにも関係がある。したがって、台湾当局から見ると、今回の優遇策は「一国二制度による統一方針」と受け取るのも無理はないのである。
台湾のメディアは香港のデモの状況を逐一報道しているが、「今日の香港は明日の台湾」になるのではないかとの危機意識を一部で呼び起こしている。来年1月に迫ってきた総統選挙については、民進党・蔡英文、国民党・韓国瑜の一騎打ちになりそうな雲行きであるが、中国の意図に反して、蔡英文の支持率が目に見えて上昇しているのは、やはり今日の香港情勢が大きく影響しているものと考えられる。
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