2024年4月20日(土)

使えない上司・使えない部下

2020年3月11日

 今回は、大手士業系コンサルティングファームの相談役で、組織人事ファシリテーターの小山邦彦さんを取材した。小山さんは1985年から2016年まで、士業法人の代表やコンサルティング会社の常務取締役を務めた。全国の中小・中堅企業から東証一部上場企業、外資系企業まで多数のクライアントに現場主義に徹した人事労務管理の指導・助言をしてきた。扱う分野は人事制度構築を主体に、採用、定着、組織開発、人材開発、労使紛争解決など多岐にわたる。現在も全国各地で専門家(社会保険労務士やコンサルタント)向けの講演を多数行う。

 小山さんにとって、「使えない上司・部下」とは…。

(francescoch/gettyimages)

相手にレッテルを貼れば、逆に自分も貼られるもの

 管理職や経営者として部署の責任者をした約30年間を振り返ると、部下に対して「使える・使えない」といった言葉を使う場合はありました。クライアントの企業でも、部下を「使えない」とディスカウントする管理職はたくさんいます。原因はいろいろあるのでしょうが、実はその管理職が「使えない人を生み出している」のだと思うようになりました。

 管理職は、突き詰めれば「自分の都合」で部下を「使える・使えない」と判断し、レッテルを貼っているように思えるのです。管理職が部下を思うままに動かしたいというのはごく普通の感情です。私が見てきた範囲では、「使えない」と言われていた部下が他の会社に転職すると活躍するケースが多々ありました。これを知ると、前の会社や部署では、さまざまな理由でたまたま適合しなかっただけでないか、と思えてきます。

 管理職が「使えない」というレッテルを貼ると、職場で即時に伝染します。同じ部署の他の社員もそのように見るのです。本人も、「自分はダメだ」と思い込むようになります。この伝染が怖いのです。「使えない」という固定観念が組織的に強くなります。「使えない」というレッテルは、間違いなく伝染するのです。

 他の部下が、上司に「彼はそんなことはないと思います」とはなかなか言えないですね。言えるのは、ごく限られた人でしょう。特に補佐的な仕事をしてくださる方の中に、ほかの社員の仕事ぶりを見る目が鋭い人がいます。たとえば、「あの人はきちんと仕事をしていますよ。“使えない”なんてことはないです」と教えてくれます。上司はこういった意見を積極的にかつ真摯に受け止める必要があると思うのです。

 実は、私も部下に同じようなレッテルを貼ってしまったことがあります。信頼している監督職から「あの人は問題が多い。なんとかして下さい」といった訴えを額面どおりに受け入れていたのです。今、振り返ると、訴え(監督職にとっては真実ですが)に囚われていました。当時の私は、人の多様性を受け入れることができなかったのだと思います。自己採点をすると、30点くらいでしょうか…。人を受け入れる器量も狭かったのかもしれません。

 そのためか、かつては多くの部下が辞めました。私に合う人は残り、合わないと思える人が辞めていきます。入退職が頻繁で、言い方は悪いですが、人材の自転車操業的な面がありました。それががんばっている部下にも負担をかけさせてしまったのではないか、と思います。次々と辞めていくから、ゼロから組み立て直しつつ、会社の業績を維持し、拡大していくのはなかなか辛いものがありましたね。

 多くの部下が辞めていく直接の理由は、育成や成長への支援をはじめ、人材マネジメントが十分にできていなかったことにあると思います。つまりは、私の力不足です。結局、部下からの信頼がなかったのでしょうね。たいした支援もせずに「使える・使えない」と部下にレッテルを貼っていたので、逆に部下からその反射(思ったことが跳ね返ってくる)があったのでしょう。部下が私を「使える・使えない」と判断していたのだろうと思います。そして「使えない」と判断して退職したのではないでしょうか。これは、部下に限りません。相手にレッテルを貼れば、逆に自分も貼られるものなのです。

 部下を「使えない」と言っている上司には、反射が必ずあります。部下は上司にとって自分の鏡ですから、自らの弱さがモロに出ることがあります。自分が嫌なところや触れられたくないところが、部下を通じて出てくるのです。ゆえに、どこかのタイミングで部下がそのような問題を起こします。たとえば、本来するべきことから逃げていると、部下も同じように責任回避の問題を起こしたりするのです。

すべての人は程度の違いはあれ、仕事に対してやる気を持っている

 しかし、ある時期から考え方が変わりました。「すべての人は程度の違いはあれ、仕事に対してやる気を持っている」と痛感することがありました。私がレッテルを貼り、使えない人材を生み出していることに気づかされたのです。それからは、自身の思いや言動をあらためようとしてきました。その結果、定着率が次第に上がり、いわゆる人材の自転車操業的状態から抜け出すことができたのです。

 今は(いや、本当は昔も)信頼できる優秀な人材が大勢そろっています。20年前は私の人材マネジメントの力は自己採点で30点程度でしたが、役員定年で経営者を退任する頃は70点くらいにはなっていたのではないかと思います。今は相談役として、組織(部署)としての点数をさらに上げるように努めています。


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