今回は、塩海苔や焼き海苔などを加工・販売をする江頭一郎商店(佐賀県川副町)代表の下村敬一郎さん(52歳)を取材した。下村さんは、佐賀県で塩海苔加工所を長年営んでいた海苔師・江頭一郎氏(故人、2012年、83歳で死去)の後を継いで、2015年から江頭一郎商店を営む。
同店は、江頭氏の死去でいったんは廃業となった。後継者がいなかったためだ。だが、下村さんは叔父である一郎の「美味しい佐賀海苔を食卓へ」の思いを受け継ぐために、金融機関から準備資金を借り入れ、店を復活させた。
この5年間、家族や親せきの力を合わせ、全国に独自の販売網をつくるなどして、経営に果敢に挑んできた。経営のモットーは、「大企業が参入できないような商品で、オリジナルの海苔加工品や米などの商品を作り、ファンを少しずつ獲得すること」だ。たとえば、塩海苔は佐賀県の素材のみでつくっている。
2017年からは、農業(下村ファーム)を営む弟と米や菜種油を共同でつくり、佐賀産としてのこだわりを感じさせる商品にしている。最近は息子を後継者として育成し、次世代に経営をつなぐ試みもする。
江頭一郎さんは、下村さんの妻の叔父だった。夫婦で江頭さんの海苔師としての仕事の誠実でありながらも、厳しい姿勢をそばで見てきた。機会あるごとに、生き方についても教わってきた。亡くなった後、地域の人びとから「江頭一郎商店を復活してほしい」と頼まれた。妻や息子、親戚らと話し合い、経営のリスクを冒してでも、伝統を受け継ぐことが大切と考えた。
下村さんにとって、「使えない上司・部下」とは…。
自分の可能性を信じ、ひたむきに生きていく
「使える、使えない」といった言葉は、もちろん聞いたことがあります。私も20代の頃、友人とパブを共同経営していた際に「あの従業員は戦力になるね」といった意味合いで時々、口にしたことがあります。そこには、10人程の従業員がいました。
皆さんが仕事をまじめにしてくれていましたが、私ともう一人の経営者は、私情をはさまずに黙々と仕事をするタイプを特に高く評価していました。観察していると、こういうタイプは得てして仕事をきちんと覚え、伸びていく傾向があります。この場合の「私情をはさむ」とは、たとえば、「私はこういう性格だから、こんな仕事はできない」と言うようなものです。つまり、割り切りができないタイプですね。自分が置かれている状況やプライベートを必要以上に見せずに、黙々と仕事をする人はいずれ伸びていく傾向があると私は思っています。
「使える」という点で最も印象に強く印象に残っているのは、前職がガソリンスタンドでアルバイトをしていた男性です。私たちの店に勤務しながらも、「ここで、自分は終わらない。いずれは、店を持ちたい」といった思いを強く持っていたようです。自分の可能性をどこまでも信じるタイプに見えました。
接客が上手いとは言えない時期もありましたが、仕事を覚える意欲があり、向上心があるのです。当時、彼は自分が何をして生きていくのか、を見つけ出すことができていなかったのかもしれませんが、「いずれ、成功したい」と信じているようでした。早いうちにお客さんたちから愛され、人気者になりました。働く以上、様々な思いがあったのでしょうが、私情をはさまず、常にお客さんや店のことを考え、行動をしているようでした。
彼も20代で独立し、パブを経営し始めたのです。周囲の同業者が次々と閉店や廃業する中、20年以上も続き、多くのお客さんに慕われたのだと思います。その後、地元の市議会の議員に立候補し、当選し、現在も活躍しています。私情をはさむことなく、仕事を黙々とする性格だから、向いているのではないでしょうか。彼の生き方から、私が学ぶものもありました。自分の可能性を信じ、ひたむきに生きていくのが大切なのだとあらためて思います。