使えない上司・使えない部下

2020年3月24日

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 今回は、NPO法人「老いの工学研究所」理事長の川口雅裕さんを取材した。1988年、株式会社リクルートコスモス(現 株式会社コスモスイニシア)入社。人事部門で、組織人事、制度設計、労務管理、新卒や中途の採用、社員教育研修に携わる。バブル崩壊後の子会社を含めた経営再建にも組織人事の面から関わった。その後、2001年からは経営企画室で広報やIRを担当した。

 03年に退職後、独立し、組織人事コンサルティング(主に人事制度の改定、組織活性化に関する助言など)を行うほか、人事分野の講演、執筆活動を展開。現在は、 NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事を務める。

(ONYXprj/gettyimages)

部下がもっとも困るのは、「ソンタク上司」

  20∼30代の頃にごくわずかですが、「あいつは使える」と話している役職者がいたように記憶しています。その後、管理職になり、部下を持った時にも使ったことはありません。当時、「川口は使える」と言われたとしても、いい気はしなかったのではないかなと思います。人をモノ扱いしているような言葉に感じますから、「あなたの道具ではないですよ」と言いたくなります。たとえ、「仕事ができる」といった意味合いで使われても、人としてリスペクトされているようには思えませんね。

 最近は、会社や上司が部下に一層に配慮することが求められる時代になりました。「使える、使えない」と堂々と言える雰囲気ではなくなりつつあります。講演、研修で接する人事担当者からも聞くことは少なくなりました。

 リクルートコスモスに在籍中、人事部にいましたから、社員を大切にしたいといった思いは今も強く持っています。経験論で言えば、ほとんどの社員は何かのきっかけで変わるものです。たとえば、インパクトのある仕事と出会うと、見違えるようになることがあります。会社員の場合は、特に40歳までくらいはその可能性が高いでしょう。変わるようにするのが、人事部のミッションではないか、と考えているのです。

 「使える、使えない」といった言葉は使いませんが、今回のテーマに合わせる形で話すと、会社員の頃にめちゃめちゃ使える上司はいました。課長の時に仕えた部長の男性で、「翻訳」がとてもうまいのです。たとえば、部長と2人で社長のもとへ伺います。社長が話したことを聞き、その真意を咀嚼して、私に伝えてくれます。「社長は、こういう意図で話されたのだと思う。だから、君はこんな具合にまとめてほしい」。

 後日、2人で社長にリポートをお見せすると、社長は感心してくれました。部長が、私に指示したとおりなのです。翻訳は毎回、正確で、部下である私からすると本当に使える方でした。おそらく、ふだんから社長と接してマメにコミュニケーションをしているから、人となりや考え方、関心事を把握していたのでしょうね。だから、言いたいことを察することができたのだと思います。

 私は仕えたことはありませんが、コンサルティングの現場で聞いたのが、「転送上司」です。たとえば、部長と課長が社長のもとへ伺い、話を聞くとします。社長の発言をほぼそのまま課長に伝えるタイプです。「社長があのように話されたから、君のほうでリポートをまとめてほしい」。そこには、部長としての咀嚼や翻訳がないのです。課長は、何かと大変でしょうね。社長の発言の真意がわからないままリポートを書くのですから…。

 部下がもっとも困るのは、「ソンタク上司」だと思います。前述のケースで言えば、社長の発言を「こういうことを言わんとしているのだろう」と想像し、課長にリポートを書くように指示します。実は、これが誤訳になる場合があります。

 翻訳上司は日ごろから社長とディスカッションをしているのに対し、忖度上司にはそのようなコミュニケーションがないのです。だから、社長の発言の真意がわからず、誤訳をしてしまいます。課長は誤った解釈を正しいものと信じて、リポートを書きます。そして、2人で社長に見せます。ところが、社長から「私の言いたかったことは、こうでない」と指摘を受けると、部長は「こんなことを指示はしていない」と自らの誤訳から逃げてしまいます。課長からすると、最悪の上司でしょう…(苦笑)。こういう部長は、社長に恐れがあるのかもしれませんね。

 私が仕えた「翻訳上司」である部長は、役員や他部署など社内への情報発信力や影響力が大変に強かったのです。社長を始め、上層部からの信用があるように見えました。個々の役員に思うこともあったのかもしれませんが、自分の感情や好き嫌いを超えて、全員に上手く対処していました。だから、社長や役員たちのことを正確に把握していたのだと思います。

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