2024年12月23日(月)

WEDGE REPORT

2020年5月18日

連日行われる記者会見は、トランプ劇場の様相を呈している(AP/AFLO)

 一刻も早く経済活動を再開させたいトランプ大統領。その理由はどこにあるのか。焦りをも感じさせる、経済の再開へのこだわりは尋常ではない。

 「ワクチンが間に合おうが、間に合わなかろうが、再開すべきだ」(4月28日)

 5月5日の米ABCテレビでのインタビューでは、ついに再開にあたっては犠牲も許容するかのような発言まで飛び出している。

 (記者)「経済の再開は死者数と外出自粛の苦痛のバランスが難しいとファウチ博士が言っているが、経済再開に死者が出るのは避けられないのか?」

 (トランプ)「封鎖が解けるわけだから、死者が出る可能性はある」

 トランプ政権が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出禁止を段階的に緩和していくガイドラインを発表したことを受けて、全米の大半の州で、理髪店や美容院に限って営業を許可するなどの、経済活動のごく一部について再開が始まっている。

 レストランやボーリング場などの再開を許可しているのはジョージア州などくらいと、この10州の中においてもごく一部に過ぎないが、トランプ大統領はできるだけ早い時期にレストランの再開やスポーツイベントの開催にも範囲を広げると共に、その他の主要州にも波及させること狙う。

 トランプ大統領は、感染拡大が深刻化し始めた段階から経済の再開に前のめりの姿勢を見せ、経済活動の再開のタイミングを探ってきた。その理由は「再選に向けた目論見が崩れた」という苛立ちだ。

 「これまで経済は史上最高の好景気だった! それがある日突然、シャットダウンになった。突然にだ」

 好調だった経済が新型コロナのパンデミックによって急ブレーキがかかったのがよほど悔しかったのか、記者会見のたびに、この恨み節が飛び出す。

 それもそのはず、11月の大統領選挙で再選を目指すトランプ大統領が誇る最大の成果が、好調な経済だったからだ。一部の熱狂的な支持者をのぞいてトランプ支持者は「トランプ大統領は口も悪いし、いろいろと問題はあるけど、景気がいいので支持している」という人が大半だ。

 保守派と組みつつ、福音派などの宗教セクターの一部、ユダヤ票の一部、経済界ではエネルギー産業を支持基盤にしているトランプ大統領だが、これらの支持グループ以外の穏健派や無党派層、浮動票を取り込める余地は少ない。どうしても支持層を固めるという「守りを固める」選挙戦略になるが、経済の落ち込みはその根本が崩れてしまうことを意味する。

 再選戦略の立て直しのためにトランプ大統領が思い描くのが、一刻も早い本格的な経済活動の再開を行って、外出禁止で鬱積していた米国民の消費活動を一気に爆発させる「V字回復」を実現させることだ。

 そのためには成長エンジンになる西海岸のカリフォルニアなどの主要州はもちろん、4月下旬の時点でまだ大規模感染に苦しむニューヨーク、ニュージャージーといった東部の主要州の経済を一刻も早く再開させたいというのが本音だ。

「(大幅な落ち込みとなる)第3期のGDPは気にしない。(10月〜12月の)第4期では、きっとこれまで見たこともない回復をするだろう。Boomだ!」

 GDPについて記者に問われると、自分の政治的計算を隠すこともなく明らかにしている。

実は読みやすいトランプ大統領の言動

 余談になるが、「予測不可能」などと言われるトランプ大統領だが、実はその行動や動機は容易に把握できる。自己承認欲求が強く、おだてられると記者会見の場だろうが、外国首脳との会談の場だろうが、簡単に本音を語る。逆にストレスや負荷には弱く、負荷がかかると不満や、どうして欲しいのか、ということもあっさり口にしてしまう弱さがある。

 つまり押しても引いても、本音を把握することが容易な人物だ。行動原理は自己中心的であるため、相手や敵もつけ込む隙は容易に探し出すことができる。筆者は2018年夏にワシントンDCに赴任して以来、基本的にほぼ全てのトランプ会見を、放送されていない部分も含めてフルで見てきてが、記者会見での発言を見るだけで、その後の行動は容易に予測できることに気づいた。

 日本の外務省関係者と話していても「行動原理が読みやすく、与し易いトランプ大統領の再選が日本政府にとってはハッピー」というのが本音だ。


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