2024年12月14日(土)

WEDGE REPORT

2020年5月18日

トランプ陣営に追い打ちをかけるテキサス州の動向

 だが、さらに追い打ちかけるようなトランプ陣営にとって逆風となる地殻変動が起きている。それは大票田のテキサス州でのヒスパニック系の増加だ。経済成長著しいテキサスはこれまで共和党の牙城といわれてきた一方、年々、ヒスパニック系の流入が続き、白人は早晩、少数派に転落すると言われている。

 ヒスパニック系は教会に通う敬虔な層を除いて、伝統的には大半が民主党支持だ。16年の大統領選ではトランプ候補がヒラリー候補を約80万票差で下している。

 だが、20年はその勝利は必ずしも約束されない。その理由はテキサスでは人口増にともなって16年以降、実に160万人が新たに有権者登録をしていている点にある。

 その大半はトランプ陣営ではなくバイデン陣営に向かうと見られるからだ。新たな有権者の160万人の半分がヒスパニック系だったとして80万人(実際はもっと多いと推測されるが)。そのうち実際に投票に行くのが、そのさらに半分だとしても40万票が新たにバイデン候補に上積みされ、トランプ大統領に肉薄できる余地がでてくることになる。

 4月の時点でトランプ大統領は各種世論調査において、テキサスでバイデン候補に1〜5ポイント差に迫られている。16年の時のテキサスでの世論調査ではヒラリー候補に2桁のリードをしていたことを考慮すれば、中西部だけでなくテキサスでも勢いはバイデン候補にあるといっていい。仮にトランプ大統領が大票田のテキサスも落とすことになれば、中西部で接戦を展開しようが、挽回はほぼ絶望的だといえる。テキサスを落とすことになれば、その時点でトランプはほぼ「即死」ということになる。

 つまり、11月の大統領選挙を控えてトランプ大統領は今、もう後がない状況に置かれているのだ。カギとなる州での支持率が低下傾向にあったところに、新型コロナによる経済の地滑り的な悪化と潜在的な民主党支持者のヒスパニック系の増加という人口動態が追い打ちをかけている。

 大統領選挙では外交での成果はあまり注目されないため、再選に望みをつなぐには経済の劇的な回復というウルトラCを演出して見せるしか方法はないのが、トランプ大統領が置かれている現実だ。だからこそ、11月の本選に経済のV字回復が間に合うよう、専門家の異論があろうとも経済を11月の選挙に間に合うよう再開して再選ムードを作り出すことに突っ走るだろう。

 激戦州の一つのミシガン州をはじめ、いくつかの州で外出禁止や営業活動の停止の撤回を求めるデモが行われていることも、トランプ大統領の意を強くしているフシもある。ミシガン州の州都では「仕事に戻りたい」「自由を」というスローガンの下、デモ参加者が車内からではなく、歩道でマスクもせずに星条旗と「トランプ2020」のプラカードを降った。銃を持ったデモ隊が州議会議事堂に乱入するという動きにまで発展している。その大半は共和党を支持する保守系団体やその支持者だ。

 一般的に都市部の民主党支持者やリベラル系は感染対策に敏感で、ソーシャル・ディスタンシィングも徹底する傾向がある一方、共和党支持者や保守系、特に田舎や郊外在住の人たちは厳しい外出制限や企業活動の制約に懐疑的な傾向がある。個人の権利や自由に敏感の保守系は、外出制限などを連邦政府による個人の権利に対する不当な介入と見る傾向があるのだろうか。

 実際、トランプ大統領はマスクも着用せず、ソーシャル・ディスタンスも考慮しない無責任なデモについて記者から問われると、「責任ある人たちに見える。ちょっと乱暴ではあるが」と甘い姿勢だ。自分が目指す経済の再開にも一致する、自分の支持者には、めっぽう甘いのがトランプ大統領の真骨頂だ。こうしたコアの支持層の要望が、さらにトランプ大統領を後押ししている構図だ。


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