反対論が根強いトランプ大統領の経済再開策
話を戻す。トランプ大統領が前のめりの経済の本格的再開だが、専門家からの反対論は根強い。
ホワイトハウスのタスクフォースの主要メンバーで、トランプ大統領に助言しているファウチ博士は「拙速に経済を再開させれば、制御不能な大規模感染が起きるだろう。とても手に負えない最悪の事態となる」と踏み込んだ警告を出している。
ハーバード大学公衆衛生学部の研究グループは4月13日発表の研究成果の中で、パンデミックは22年まで続く可能性があり、何らかのソーシャル・ディスタンスが22年まで必要となるとし、コロナとの戦いが長期戦となる見通しを示している。
拙速な経済の再開に対する懸念は金融当局からも上がっている。米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は5月7日、NBCテレビのインタビューに対して「多くの地域で感染拡大はなお続いている。後で代償を支払わなくてすむよう、尚早な経済の再開はしてはならない」と釘を指している。
実際、データも厳しい長期戦となることを示している。ジョンズ・ホプキンス大学のデータによれば4月の全米の感染ペースは緩やかな下降線を描き始めているものの、1日あたりの感染者数は平均2万人前後で高止まりを続けている。ソーシャル・ディスタンシングと呼ばれる人と人との距離を保つ予防措置をとっていても、だ。
コロナ終息前に経済を本格的に再開させることの最大のリスクは、第二、第三の大規模感染の引き金となることだ。
もし時期尚早な経済の再開のせいで、第二波、第三波の大規模感染を招き、米国が世界的感染の震源地となってしまえば、これまでとってきた営業自粛や外出禁止の苦労は水の泡となり、再び米国はロックダウンに逆戻りとなる。そうなれば正常化の見通しも立たなくなり、V字回復どころか、再び経済は大きく失速することになるだろう。
一般国民への心理的インパクトも無視できないだろう。長いロックダウンの末にようやく通常の生活に戻れた矢先に再び外出禁止生活に戻ることになれば、心理的な苦痛は特に大きいだろう。自殺や家庭内暴力、精神疾患だけでなく、ソーシャル・ディスタンスを怠るモラルハザードも起こるかもしれない。そうなればますます感染封じ込めも難しくなってしまう。
当然、トランプ大統領個人の政治的計算も大きく狂うことになる。「戦時下の大統領」を演出しながら打ち出してきた「危機に強い大統領」というイメージは崩れ去ってしまうことになる。
全米の死者数は7万人を超えた。最悪の場合、最終的には10万人とも25万人ともいわれる米国内の死者数拡大の責任を問われる可能性すら出てくる。10万人というのは今でも米国にとってトラウマになっているベトナム戦争の死者数5万7000人を上回る数字だ。まさにトランプにとっても米社会にとってもベトナム戦争の泥沼のような事態だといっていい。
経済は回復せず、さらなる大規模感染。そしてコロナ対策の失敗の責任追及。こうなれば大統領選での敗北は決定的だろう。だからこそ、今回の経済の再開はウルトラCにも、世紀の致命傷の、どちらにもなり得る危険な賭けとなる。