2022年12月2日(金)

田部康喜のTV読本

2022年10月6日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 NHKスペシャル「新型コロナ病棟 いのちを見つめた900日」(10月1日)は、聖マリアンナ病院の救命医療チームを2年半近くも密着して取材した、ドキュメンタリーの最高傑作である。新型コロナがどのような形で歴史に残っていくにしても、最高の資料として幾度も繰り返し見られることだろう。

(Chalabala/gettyimages)

二人の女性感染者との闘い

 救命救急センター長として、チームを率いている、藤谷茂樹医師のラストシーンの言葉は、強く胸を打つ。ナレーションンに吉川晃司を起用したのも、新型コロナ病棟の緊張感と、人間のやさしさに包まれた医療チームの実態を浮き彫りにした。

 「(密着取材した)900日間に奇跡とも思える回復もあった」というナレーションを受ける形で、センター長の藤谷は静かに語るのだった。

 「ぼくたちは、その生命に対して、生きようという方に力を提供するということぐらいしかできない。救える命はすべて救いたい」と。

 取材期間中に救命救急センターが約180人のチーム誰一人として離職していなかったという逸話もまた、ドキュメンタリーを浮かび上がらせる。新型コロナとの過酷な戦いのなかでは奇跡とも思える。

 新型コロナは、変異を繰り返して、今冬には第8波の襲来が予想されている。政策担当者と医療関係者のみならず、次の波を乗り越えて生き続けなければならない人々にも必見の作品である。

 聖マリアンナ病院の新型コロナ病棟のなかで、患者として二人の女性に焦点が当てられている。彼女たちと医療スタッフのコロナウイルスに対する闘いはすさまじい。

 昨年8月、妊婦の坂本なつ子さん(仮名)が、さまざまな医療機関から入院を断られたすえに、聖マリアンナの救命救急センターに入った。結婚して間がない、坂本さんは妊娠7カ月、年齢は40歳代だった。

 人工心肺装置(ECMO)を装着したまま出産しなければならないことが予想された。例のない出産である。坂本さんの意識は混濁したままだった。

 坂本さんの肺は検査の結果、真っ白であることがわかる。「どうしても妊娠していると、酸素の消費量が子どもの酸素も呼吸しないといけないため、相当の負荷がかかった」と、センター長の藤谷医師は所見を述べる。

 まだ、出産の週までは計算上は3週間あった。しかし、医療チームを驚かせたのは、坂本さんが眉間にしわを寄せたことによって、陣痛が始まったことを知ったことだ。

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