2022年12月6日(火)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年8月5日

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唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

 新型コロナウイルスが発生した当初、コロナの終焉は集団免疫しかないと考えられていた。世界の誰もコロナに対する免疫を持っていないので、全員が感染するまで流行は拡大する可能性があるのだが、理論的には人口の7割程度が感染すると、感染者の周囲に非感染者が少なくなり、感染の機会が低下して、感染は終わるというのが集団免疫の考え方だ。

(SilverV/gettyimages)

 ところが大部分が感染するまで流行が続くという考えはすぐに崩れた。日本でも世界でも、人口の7割どころが1割をはるかに下回る割合が感染しただけで自然に収まるという波を約4カ月周期で繰り返したのである。

変異ウイルスが作り出す流行の周期

 流行の波が発生する原因として、行動制限がなくなって他人との接触が多くなると流行が起こり、規制が厳しくなって他人との接触が減ると流行が収まると説明されている。しかし、それはあり得ない。

 日本も世界もよく似た4カ月周期の流行を7回も繰り返しているのだが、世界中で同じ時期に人流が増加し、同じ時期に減少するなどということは考えられないからだ。

 この流行の波を説明する可能性を示しているのがNature誌に掲載された論文である 。南アフリカでは2020年から5波の流行が起こっているが、第1波は初期型、第2波はベータ型、第3波はデルタ型、第4波はオミクロンBA1・BA2型、そして第5波はオミクロンBA4・BA5型が原因で、変異型が現れるたびに新たな流行が起こっている。またオミクロン株は免疫を回避する能力を獲得している。このような事実から、これまで周期的に流行が起こった原因は次のように考えられる。

 私たちは誰もコロナだけに対応する「獲得免疫」は持っていないが、多くの病原体に対抗する「自然免疫」は持っている。そのおかげで少人数だけがコロナに感染して、流行は小さな波で終わった。

 感染すると免疫ができるので、同じ型には感染しない。しかし、変異型が現れると、再び小さな波が起こる。そんなことを繰り返しているうちに、免疫を回避する変異型が現れて、第1波から7波に向かって流行の波が次第に大きくなった。今後も、新しい変異型が現れるたびに波を繰り返すだろう。そんな予測である。

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