2022年12月7日(水)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年8月3日

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唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

 ワクチンには避けることができない悲劇がつきまとう。それは必ず副反応があることである。医薬品にも必ず副作用があるのだが、それはワクチンほど大きな問題になっていない。その理由は、ワクチンと医薬品の使い方と効果に大きな違いがあるためである。

(kazuma seki/gettyimages)

 医薬品は、例えば頭痛や発熱など症状のある人が鎮痛剤や解熱剤などを服用して、短時間で症状が緩和し、それが医薬品の効果であると実感できる。もし副作用で胃が痛くなっても胃腸薬などを飲んで我慢する。医薬品のメリットとデメリットを理解して比較検討し、メリットが大きいと判断をしているため、不満はないのだ。

 ところがワクチンはいつか起こるかも知れない感染を防ぐために、現在は健康に何の問題もない人が接種する。そして、ワクチンが効いたのか効いていないのか、その効果を実感することはほとんどない。

コロナでも見えないワクチンの「効果」

 これまでに日本で新型コロナウイルスに感染した人は1260万人、国民の約1割であり、国民の9割は感染していない。国民の8割はワクチンを接種しているのだが、感染しないのはワクチンのおかげと考える人がどれだけいるだろうか。そうは思えないからマスクを手放さず、外出を控えているのだろう。

 感染には運、不運があり、運が良ければワクチンを接種しなくても感染しない。ワクチンを接種していても感染するブレークスルー感染も起こっている。だから自分が感染していないのはワクチンの効果であることを証明するのは難しい。接種した集団と接種しない集団の感染率を比較するという面倒な試験をしないとワクチンの効果は分からないのだ。

 これに比べて、ワクチンの副反応による健康被害は自分自身が明確に自覚できる。そして根拠を示して被害を訴えることができる。メリットを実感できないのに比べて、デメリットは明確に実感するのがワクチンの特徴なのだ。

 ワクチンで助かった個人は特定できないが、副反応が出た個人は明確に特定できるというアンバランスが生むのが「ワクチンの悲劇」だ。世の中には被害者の声だけが広がり、助かった人の声は全く聞こえない。こうして社会にはワクチンに対する不安や恐怖ばかりが広がり、ワクチン忌避運動が起こり、助かる命が失われることになる。

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