(聞き手/構成・編集部 大城慶吾、野川隆輝)
新型コロナウイルス感染症の発生から2年。これまで最前線の現場で奮闘し、コロナ禍を乗り越えようと、必死に努力されてきた医師や看護師、全国の保健所職員、感染症・公衆衛生の専門家の方々に、心から敬意を表したい。だが、コロナ禍で2度目の春を迎えた今もなお、日本では「感染症対策」と「社会経済活動」の両立の見通しは立っていない。
コロナ分析に1年以上従事してきた筆者の見る限り、感染症・公衆衛生の分野では、ゲノム解析や保健所で活用するマニュアル整備、疫学調査の設計など、現場の近くで実務と研究に尽力されている方が多い。しかし、疫学モデルに精通した方は必ずしも多くない。しかも、日本では、感染症対策と社会経済活動が別々に議論されているように感じる。われわれのチームでは、2021年1月から、数理モデルを使いその両立に向けた、現実的な見通しを示すべく、さまざまな切り口で感染者数や経済見通しなどを毎週、分析・試算・公表する試みを続けている。
本稿では、日本が今後、どう新型コロナの感染リスクと向き合うべきか、筆者の考えを述べたい。
日本:20億円、豪州:12億円、米国:1億円、英国:0.5億円──。これは、各国・地域で「コロナ死亡者を1人減少させるためにどの程度の経済的犠牲を払いたいか」という支払い意思額を試算したものである。一目瞭然だが、先進国の中で日本が突出している(下表参照)。さらに都道府県でも地域差が見られ、東京都:5.6億円、大阪府:4億円に対し、鳥取県:563億円、島根県:730億円という結果である。
紙幅の関係上、計算方法の詳細は省略するが、概略を示すと、まず、各国・地域の感染・経済に関するデータと数理モデルを利用し、各地域におけるウイルスの感染力や致死率、経済政策、医療体制など広い意味での「制約」を推定する。その上で(消費者の選好・嗜好を推計する)「顕示選好」という考えを応用する。これは、多くの選択肢からある特定の選択肢が選ばれたならば、消費者にとって、その選択肢がもたらす効用が他の選択肢より大きいはず、という経済学の考え方だ(※)。
このように、①データ、②数理モデル、③経済学の考え方の3つの組み合わせによって、試算する。なお、この数値は支払い意思額であり、実際の支払い額ではない。また、アンケート調査でもなく、経済損失を死亡者数で割るという単純な割り算でもない。感染抑制と経済のバランスに関して、「これだけの社会犠牲であれば許容できる」という国民の〝価値観〟を示すものと言え、数値の大小によって優劣をつけるものでもない。
ただ、この試算から言えることは、日本の場合「20億円という大きな犠牲を払ってでも死亡者数を抑えたい」という価値観があるということである。
一方、英ジョンソン首相は2月21日、国内の新型コロナ規制を全面的に撤廃することを発表し、社会経済活動の正常化に大きく舵を切った。まさしく〝ウィズコロナ〟であり、日々、数万人の新規感染者や数百人の死亡者が出たとしても、「コロナとはそうしたリスクがあるものであり、この程度のリスクは許容しよう。共存しよう」という態度を明らかにしたのだ。