2022年8月11日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年8月5日

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唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

必要なのはウィズコロナという考え方

 生物には「赤の女王の原理」がある。ルイス・キャロル著『鏡の国のアリス』の世界はすべてが動き続けている。赤の女王はアリスに「ここに留まろうと思うなら、力の限り走らなくてはいけない」と教える。同じように、生物はみな進化の激しい競争をしている。そのなかで生存を続けるためには全力で進化する必要があるというのが「赤の女王の原理」だ。

 こうして、コロナウイルスは進化を続け、武漢株に対して作ったワクチンが効かない変異型が出現するのは時間の問題だったのだ。それではどうするのか。

 財務省によれば、ワクチン8億8200万回分の購入は2.4兆円、接種費用は2.3兆円で、ワクチン1回分に直すと5328円になる。1億2500万人の国民の8割に年2回接種すると、その費用として1兆円を超す税金がかかる。

 それでも感染を完全に止めることができるのであれば、計算は合うかもしれない。しかし、オミクロン株に対するワクチンの感染予防効果が薄れたのであれば、国民全員が接種する意味はない。

 よいニュースは、オミクロン株の毒性が弱くなっていることだ。感染しても大部分が無症状か軽症で済むのであれば、対策の基本を「感染防止」から「重症化防止」に移行し、ウィズコロナを実現すべきである。弱くなったとはいえ、ワクチンに重症化予防効果があるのであれば、高齢者や基礎疾患を持つコロナ弱者に限って接種することが最善の方向であろう。

 今後、感染予防効果があるワクチンの開発が進むのだろうか。有効なワクチンを開発しようとすれば、変異型が現れるたびに新たなワクチンを作らなくてはいけないかもしれない。

 他方、感染防止至上主義の国は中国、日本など少数にとどまり、多くの国でウィズコロナ政策が広がっている。世界が感染対策に力を入れなくなっている現状では、国民全員にワクチンを接種して感染を防ごうとする国はなくなるだろう。そうなれば、ワクチンメーカーも新たなワクチンの開発の意欲はなくなる。

 ワクチン政策の変更と関連して、多くの意見があるにもかかわらず、日本はまだコロナを2類扱いにしているが、そのために医療崩壊や保健所機能崩壊が起こるなどのデメリットは大きい。国内に多数の感染者がいるにもかかわらず入国制限を続けるという不合理な規制も続いている。

 早期に5類への変更を行い、対策の中心を感染防止から重症者の救済に変更すべきである。

 
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