3000万円払って高台に住む人はいないだろう。安く払い下げるか、元いた土地を高く買い上げない限り、新たに造成された高台に住む人はいない。高台がゴーストビレッジになることを避けるためには、そうするしかない。3000万円かけたものを500万円で売ればなぜ3000万円もかけたのかと批判される可能性がある。それを少しでも避けようという政治的テクニックが被災地の買い上げではないだろうか。
本当に危ないのは全体の10%
元いた土地が1000万円だとしたらと、陸前高田市の市長は述べている。三陸の宅地は1000万円程度のものなのである。その土地のために3000万円かけて新たに土地を造成するのは間違っている。それよりも、高台移転を止めて浮いたお金を港、加工場、関連施設、船、漁具、上物の住宅の再建に使った方がよい。
もちろん、いくらコストがかかると言っても、危険なところに住まわせる訳にはいかない。どうしたら良いのかという反論があるだろう。しかし、答えはある。
国土交通省都市局「東日本大震災による被災現況調査結果について(第1次報告)」(11年8月4日)は、浸水地域を4区域に分けて、建造物の多くが「全壊(流出)」、「全壊」、「全壊(1階天井以上浸水)」の区域をA区域としている。それ以外の区域は、住宅の形は残った地域である。住宅の形が残ったとは、2階にいれば命は助かった地域のことである。
すなわち、A区域は居住禁止すべき地域であるが、それ以外の地域は、財産の損失の危険は大きいが、命を失う危険は小さい地域である。今回の津波が100年に1度、または1000年に1度の津波と言われていることを考えると、特に、漁業関係者など海の近くに住む必要のある人は、住居を失う危険があっても、命が助かるのであれば居住したいと考えるかもしれない。
すると、津波の危険によって、A区域は住宅を建てることができない地域であるが、それ以外の区域は建てることが可能な地域である。特に、1階をコンクリート建てとすれば、ほぼ完全に安全となる(以上詳しくは拙著『震災復興 欺瞞の構図』第4章、新潮新書、参照)。実際、宮城県も津波の高さが2メートル以下だった地域は、浸水はしても流失した建物はなく、その地域の住宅は再建可能としている(「津波2メートル以下の地域は住宅再建可能」読売新聞11年9月29日)。