2022年12月6日(火)

Washington Files

2020年5月25日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「Do it yourself」

 第3点目に、すべてを自己流ですませる「DIY」がある。「Do it yourself」の考えは歴史的に国民生活の中に深く根差しており、マイホームも自分の手で作り上げるという伝統を支えるため、「ホームセンター」が全米各州の隅々にまで普及してきた。

 さらに市民一人一人の健康管理・福祉も国の世話にならず、個人の医療保険、雇用主との年金制度が中心的役割を果たしてきた。今日なお、世界先進国の中で唯一、国民皆保険制度が存在していないのも、この「DIY」思想によるところが大きい。

 ところが今回のコロナウイルス感染危機で、このアメリカの制度的欠陥が一挙に露呈する結果となった。

 すなわち、皆保険制度なきがゆえに、貧困階層の間で、ウイルス感染の予兆があっても高額の医療費を負担できず、医者の診断を受けずに放置していたことから重症患者となるケースが数多く報告され始めたからだ。アメリカの主要メディアも、感染者数、死者数の両面で世界最悪の事態に直面している背景として、所得格差拡大そして、黒人、ヒスパニックを中心としたマイノリティ社会での被害がとくに目立っている事実を繰り返し報道している。

 このほか、「アメリカ例外主義」の特徴としてこれまで、①自由放任主義②アメリカ特有のポピュリズム(大衆迎合主義)③機会均等主義④宗教的熱血主義⑤愛国主義、などが社会政治学者たちの間でも俎上に上がってきた。

 かつて筆者は、このような「アメリカ例外主義」研究の第一人者として知られ、名著『American Exceptionalism』の著者でもある故セイモア・リプセット元アメリカ政治学会会長をコロンビア大学研究室に訪ね、インタビューしたことがあった。

 博士は「わが国は何から何まであなたの国とは考え方がまるで反対だ。そんな両国が緊密な同盟関係を維持していられるのが、不思議でしかたがない」と前置きした上で、次のように語ってくれたことを思い出す:

 「まず世界先進国の中で、アメリカほど、政府権限の限定された国は例を見ない。これは、『メイフラワー号』で新大陸に渡ってきた新大陸開拓者たちが母国(イギリス)に歯向かって新たな国を創設した時以来の伝統だが、今も昔も基本的に変わらない。とにかく自立心が旺盛であり、市民は政府のやることなすことをいちいち疑ってかかるところがある。『スモールガバメント』(小さな政府)の考え方もそこからきたものだ……」

 まさに、コロナウイルス感染危機の対応をめぐっても、当初から連邦政府が及び腰になる一方、ロックアウトを忠実に守るところもあれば、早々と経済活動再開に踏み切るなど、州によってバラバラの判断を下してきたことが、感染者、死者を激増させる結果となったともいえよう。

 換言すれば、「アメリカ例外主義」の負の側面が一挙に噴き出したことになる。

 ただ、上記のような「コロナ危機」対応は別としても、だからと言ってアメリカ例外主義のすべてに非があるというわけでは無論ない。

 逆に「楽観主義」一つ例にとってみても、その特徴が際立っていたからこそ多くの市民たちに“アメリカン・ドリーム”を抱かせ、過去を振り返ることなく、未来に向け絶えず邁進させ、イノベーションと不屈の精神で偉大な国づくりへと導くことができた。

 従って、今回の場合も、アメリカは第二次大戦以来の未曽有の経済困難に直面したとはいえ、持ち前の楽観的姿勢を失うことなく、遠からず再興に向けて新たな一歩を踏み出すことは間違いない。

 1930年代初期、世界大恐慌でニューヨーク市街にあふれかえった失業者達を大量動員し、起工からわずか13カ月半(410日)という驚異的スピードで当時としては世界最高層(102階)の「エンパイアステートビル」を完成させた、アメリカ人の知恵と爆発的エネルギーは、90年後の今日もいぜんとして健在のはずだからだ。

  
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