米ヘリテージ財団のウェブサイト5月21日付で、同財団のDean Chengが、中国の言う「法律戦」を分析し、それは単なる法律的概念ではなく、敵ないし相手を弱体化させ、政治的主導権を握ろうという攻勢的な概念だ、と言っています。
すなわち、中国共産党の戦略・戦術論の中には「三つの戦い」と称せられる「世論戦」「心理戦」「法律戦」の三分野があり、これらは互いに密接に結びついている。また、それらが「戦い」と呼ばれるのは、最終的にこれらが武力行使の一部をなすものとして連続的に捉えられているからだ。
このうち、「世論戦」は世論に対する宣伝工作のことで、共産党統治の重要な一環だ。極端な場合には、「黒」を「白」と100回宣伝すれば、やがて事態をその方向に動かせる、という考えに近く、その主たる手段となるのは内外のメディアだ。
「心理戦」は、相手方の心理を動揺させ、中国の望む方向に事態を誘導することを目指すもので、脅迫的手段の行使や、いざという場合の軍事力行使を匂わせることも入る。これをよく示すのが、今日の南シナ海の事例だ。
そこで「法律戦」だが、王朝時代の中国において法家の唱えた「法」とは、人民や社会を統治するための手段であり、この「法」は、支配する側をも制約するという考え方とは無縁だ。対するに、近代法の概念では、支配者も被支配者も共に法の適用を受ける。中国には元々「法治」の概念はないということだ。
従って、共産党治下においては、法律は党に奉仕するための手段となり、党はそれに拘束されない。今日、中国でも経済の近代化に伴って、経済・商業関係の法律はかなり整備されてきたが、刑法や民法の法的構造は脆弱であり、国際法に至ってはほとんど基盤が存在しない。
その結果、国際法も政治の必要性によって解釈が変わり得るものとなる。実際、中国の書物は、「法律戦」の目的は法的勝利ではなく、軍事的勝利だと述べている。また、解放軍の「政治工作規定」の中にも、「『法律戦』は戦闘の一つの形態だ」という記述がある。中国の反国家分裂法、領海法、国連海洋法なども、戦術面で「法律戦」としても利用される。
このように、中国では法律戦と軍事活動は連続したものとして捉えられているため、中国共産党では総政治部門(General Political Dept.)が政治闘争と「法律戦」の双方に跨った仕事をしている。しかし、西側では、「法律戦」は本来外交官の仕事だ。