2024年12月13日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年6月14日

 米シンクタンク、のウェブサイト5月22日付で、Tomas Riesスウェーデン戦略研究所長が、NATOは外部要因でなく、内部要因によって漂流し始めている、としてNATOの現状を手厳しく批判しています。

 すなわち、NATOの欧州加盟国は、グローバル化していく安全保障環境に適応できなかった結果、将来に展望を持てず、決まりきった基本的なこと以外に戦略的利害を特定できず、どの脅威を重視すべきかでも合意できず、脅威に対処するための軍事力を創出することもできずにいる。しかも、こうした現状を認めようとせず、枝葉末節をいじってきた。

 そうした中でNATO首脳会談がシカゴで開かれたが、主要議題となったのは、1.アフガニスタン、2.将来の軍事能力、3.パートナーシップの強化だった。1.と2.は困難で重要ではあっても戦略的課題とは言えない。他方、真に戦略的な懸案事項、欧州NATOへの米国の核の拡大抑止とサイバー安全保障は脇に回されてしまった。

 また、3.は準戦略的課題と言えるが、1)ロシアとパキスタンは戦略的に重要だが、戦略的パートナーとしては期待できない。ロシアの言動は常に敵対的であり、パキスタンは今にも暴発しそうな戦略的厄介者だ、2)EUも対話以外の能力がなく、戦略的パートナーにはなれない、3)弱小国のアルメニア、フィンランド、キルギスタン、スウェーデンは、便利で有用だが、元々戦略的存在ではない、4)豪州、日本、韓国、NZは、相当な国際貢献ができるが、NATOが明確な世界戦略を持たない限り、NATOとパートナーを組んで能力を発揮することはできないだろう、というように、あまり展望はない。

 これが、シカゴのNATO首脳会談だった。大勢の関係者が出席し、会談自体よりそれに反対する抗議運動に関心を持つメディアによる報道があり、重要ではない問題でおおいに進展があった。これは笑える話ではない。なぜなら、今後、米国と欧州、特に欧州はNATOが必要になるからだ、と言っています。

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 欧州側NATOの貢献不足への不満と苛立ちを吐き出したような論評ですが、ただし、欧州を捨てるべきだと言っているのではなく、欧州にもっとちゃんとしろと言っているものです。


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