2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年5月29日

 米AEIのウェブサイト5月7日付で同研究所のDaniel Vajdicが、クレムリンがミサイル防衛について強硬な発言をしたとして、このロシアの姿勢に反撃する必要がある、と論じています。

 すなわち、欧州ミサイル防衛計画(MD)に対するロシアの対応は度を越している。先週マカロフ参謀長は、NATOのミサイル防衛施設に対する先制武力行使を検討すると述べている。

 それより前にメドヴェージェフも、欧州MDはロシアの弾道ミサイルに対しては使われないという法的保障を米国が与えないので、MD交渉は失敗した。ロシアは新START条約から脱退することもありうるし、カリニングラードにミサイルを配備し、欧州のMDシステムを破壊する攻撃兵器も配備する、と脅したが、マカロフの発言は、このメドヴェージェフ発言よりも一層強硬だ。メドヴェージェフは、ロシアのミサイルを米のMDシステムに向けると言っただけだが、マカロフは先制攻撃がありうると言っている。

 こうした強硬姿勢がなぜ出てくるのか。権威主義的政権は国内問題から目をそらすために、「包囲されている」とか外国の脅威を誇張して言うものであり、NATOはそのための格好の標的だ。

 ただ、それだけでは、ロシアのMDへのこだわりは説明できない。欧州MDがロシアの弾道ミサイルを撃墜する、あるいはロシアの第2撃能力を縮小・排除することはないのが明らかなのに、ロシアがこだわるのは、かつての超大国の名残りとしてロシアに残っているのは、安保理常任理事国の地位と大量の核兵器庫しかなく、それが大国としてのロシアの自己認識に不可欠だからだ。ロシアはこれらのシンボルが理論上にせよ、弱くなるのは避けたいのだ。

 しかし、だからと言って、MDに関するロシアの好戦的発言が正当化されるわけではなく、むしろこうしたロシアの対応こそ、責任ある大国ロシアへの信頼を損ねる。

 オバマ政権はマカロフ発言に対して何も言おうとしないが、こうした強硬発言を無視することは、ロシアの不適切な行動を奨励するだけだ、と言っています。

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 この論説は的を射ています。マカロフ発言はこれまでのメドヴェージェフ発言を一歩越えており、こうした脅しをかけるのはロシアの利益にならないとロシアには言うべきでしょう。


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