5月6日、ロシアの大統領就任式を翌日に控えた首都モスクワで、「21世紀のツァーリ(皇帝)」と呼ばれるウラジーミル・プーチン氏を批判する大合唱が、初夏の青空に響き渡った。
「プーチンのいないロシアを」
「われわれはみな、プーチンに反対だ」
「プーチンは泥棒だ」
学生から高齢者まで
デモ参加者たちの切実な声
昨年末の下院選挙不正疑惑をきっかけに、突如として沸き上がった反政権デモ。プーチン氏が政権運営の手綱を握ったこの12年間は、ソ連崩壊後の混乱から安定をもたらしたが、一方で、負の遺産も澱のようにロシア社会に積もり重なった。
肥大化した官僚制機構や治安機関の横暴、救急車の隊員や学校の先生にも賄賂を渡さなくてはならないほどの汚職の氾濫、そして、プーチン支持のニュースばかりを伝える国営テレビの報道ぶり…。嫌気がさした市民たちはついに立ち上がり、非効率、不公正国家の象徴である反プーチンを訴え始めたのである。「泥棒」の言葉には、自分たちの正当な権利がいつの間にか盗まれている市民の被害感情が滲み出ていた。
3月の大統領選挙では結局、プーチン氏が64%の票を獲得して当選した。しかし、モスクワではプーチン票は過半数に届かず、堅牢だった権力の扉に大きなひびが入った。クレムリンはその地殻変動の音を確かに聞いたのである。
プーチン出身地にも反勢力
野党勢力の呼びかけに、この日、2万人の市民が結集した。政治組織の塊も随所に見られたが、老若男女を問わない一般庶民が思い思いのメッセージを込めた看板やプラカードを持ち、パレードに参加していた。ベビーカーを引く若い夫婦や若年層、そして、40~50代の働き盛りが休日の散歩がてらに歩いていた。
ソ連時代のKGBによる監視社会を生き抜き、通りに出てお上への「ニェット(No)」を声高に叫ぶことなど決して許されなかったお年寄りまでもが、民主国家では当たり前の集会の自由、表現の自由を享受していた。学生のユーリャ(24)が言った。
「プーチンは政治の不正や不公平を作り出している。表面的には昔より良くなったかもしれないけど、プーチンの周りにいる人だけが得をしている。選挙は正しくなかったしね。ここには国を再建したいと思う人が集まっているのよ」
女医のオクサーナ(53)は同世代の女友達3人と一緒に参加していた。「なぜ反プーチンなのですか」と聞くと、湧き水のように国を憂う言葉が口をついて出てきた。