「プーチンは泥棒よ。お金が1人のポケットに入っていくのはおかしいと思う。この国はお年寄りがちゃんとした医療を受けられないし、学校はちゃんとした教育を行っていない。自分たちの子供やお年寄りのことがとても心配なのよ。プーチン大統領はあと6年も続く。年々、この国に住むのが怖くなっているわ」
プーチン氏の出身地、サンクトペテルブルクからこの日朝、駆けつけたという総勢100人超の集団がいた。「サンクトペテルブルクは反プーチンだ」という長さ10メートルほどの横断幕を持って歩き、ひときわ目立っていた。
「プーチンはピーチェル(サンクトペテルブルクの愛称)の恥さらしだ」
痛烈なスローガンの大合唱は、普段は町のライバルであるモスクワっ子からも喝采を浴びた。
「真水」の情報を手に入れ始めた中間層
デモに集まったのは、この10年の経済成長で収入が増え、欧米の洗練されたモノを手に入れることができるようになり、欧米型の生活様式や企業活動、政治参加システムなどを希うリベラル派の人たちだった。この集団は、都市部中間層とも言われた。
1990年代のエリツィン時代や前のプーチン時代初期には、資本主義を信奉し、経済の自由化を訴えていた人たちがいた。同じ「リベラル」でもその様相はまったく異なった。
この人たちはソ連崩壊後の混乱の最中、欧米の一流の大学で学んだ高度な金融・経済スキルを用いて、巨額の富を築いた。新興財閥「オリガルヒ」と呼ばれた一派は政権中枢と結びつき、天然資源の採掘権や国家資産を強奪し、大衆への再分配を許さなかった。そうして、一般庶民の感覚からかけ離れ、貧富の差と国の荒廃を招いた。アルコールに溺れ、健康不安のあったエリツィン元大統領はオリガルヒの伸張を許し、自らも国民の支持を失っていった。
ロシアの主要輸出品である石油・天然ガスの高騰という追い風に乗ったプーチン氏は、政府の資本支配が及んだ国営テレビを使って、ロシアを強い国家に再建する救済者としてのイメージを植え付けることに成功した。プーチン氏の支持率が78%と最高を記録した2008年ごろ、テレビのチャンネルをつけると、どの報道番組もプーチン氏の一日の行動が事細やかに伝えられた。
「真実を知りたければネットを見ればいい」
それが、政府の巧みな印象操作によるプロパガンダだったことをデモの参加者が知ったのは、インターネットの普及と密接な関係がある。可処分所得が増えた庶民たちはパソコンやスマートフォンなどを購入し、ネットを通して、クレムリンによる世論誘導のフィルターを通していない“真水”の情報を得るようになったのである。
世論調査機関によると、2008年に11%だったインターネット利用者は12年4月の段階でその3倍超の38%に拡大していた。金融アナリストのアレクセイ(30)は「テレビ報道で得られなかった情報がインターネットを通して入ってきた。そうして、警察の横暴、司法制度の堕落など、今起こっている出来事を知るようになった。昔は情報は一方的なものだったんだ。だからプーチンは人気だったんだ」と語った。