こんなアネクドート(政治風刺の小話)がある。ソ連時代、共産党機関紙「プラウダ」(真実の意)や政府機関紙「イズベスチア」(ニュースの意)があった。ソ連経済が停滞する中、当時の人々は「プラウダにイズベスチア(ニュース)なし、イズベスチアにプラウダ(真実)なし」と揶揄し、政権を批判した。
ところが今は、このプラウダに引っかけて、「プロパガンダを知りたかったらテレビを見ればいい。プラウダ(真実)を知りたかったらネットを見ればいい」というのである。
プーチン支持派の本音
この抗議デモと同じ日、別の場所で与党組織が企画した親プーチン集会が開かれていた。制服を着たロシア軍兵士、郵便事業を引き受ける連邦機関「ロシア郵便」職員、与党統一ロシアの政党職員などが集結し、「プーチン支持」の旗を持って、音楽イベントに聞き入っていた。抗議デモとはまったく違い、動員色と公務員色が濃かった。
「プーチン氏はイヴァン雷帝(16世紀の人物)、ピョートル大帝(18世紀の人物)の次に、国を統治する資格のある指導者だ。今の政治家の中で彼ほど責任感があって、強くて、実行力のある人はいない。反プーチンを訴える人々は、この国からプーチン氏がいなくなったら壊れてしまうことをまったくわかっていない」
統一ロシアの支持者でもある医者のミハイル(25)はこう言って、国の安定のためにはプーチン氏が必要なことを滔々と語った。
確かに多くの人々が今もまだ、プーチン時代に整備されたインフラや社会保障制度、成長が続く経済活動などに満足している。親プーチン集会に参加した職業組合に務める男性(48)はこんなことを言った。
「プーチンのおかげでロシアは復活した。プーチンのおかげで私たちは守られているのを感じる。彼はロシアの現実をよく知っているリーダーだ。プーチンとロシアは一つの概念とみていい。他の欧州の国をみてごらん。成長しているのはロシアだけだ。プーチンがいれば、ロシアはもっと成長できる」
親プーチン集会の参加者もきっと、ネットを通して一方の真実を知っているに違いない。しかし、プーチンがいなくなれば、この10年の成長で得た安定的な生活がまた水泡に帰すかもしれない。エリツィン時代の90年代、ハイパーインフレが襲ったロシアでは、たった10年間で2度も、高額のお金がただの紙切れになった過酷な体験を味わった。
もうたくさんだ――。あの悪夢はロシア人の原風景として今もしっかりと胸に刻まれている。司法制度や官僚制度、報道の自由に少しぐらい欠陥があっても目をつぶればいい。皇帝がきっと良い方向に導いてくれる。親プーチンの理由にはこんな精神構造がある。
ネット世代とプーチン政権
真の民主改革の行方
抗議デモに来ていたテレビ局に勤める記者、ドミートリー(64)が自戒を含めて、こう語った。