いま、欧州諸国は再生可能エネルギーの導入に力を入れている。温暖化対策もあるが、大きな狙いの一つはロシアへのエネルギー依存度低減だ。欧州は、天然ガス輸入量の40%、石油の30%をロシアから購入している。天然ガスの大半はウクライナ経由のパイプラインで輸入されている。2006年と2009年に、ロシアはウクライナとの天然ガス価格交渉が紛糾したことを理由に、厳冬期にこのパイプラインを閉じた。
欧州各国は震え上がった。厳冬期に暖房用のガスが不足する事態になれば凍死者が出かねない。再生可能エネルギーにより自給率を向上させる策に加え、中央アジアから天然ガスを輸入するプロジェクトを進め、環境問題が指摘されているにもかかわらず英国、ポーランドなどがシェールガスの開発に熱心なのは、脱ロシア政策の側面がある。
ロシアから代替品のない電力を購入するのは安全保障上問題だろう。天然ガス、石炭などであれば、供給が途絶しても他国から購入可能だ。しかし電力の供給が途絶すれば、どうにもならない。欧州諸国がロシアへの依存度を下げようとしているのは何故なのか。よく考えてみる必要がある。
中国も巻き込み大きなネットワークにすれば、ロシアも供給を中断しにくいとの意見も朝日新聞は掲載しているが、欧州全域のネットワークの基になるウクライナへのパイプラインを簡単に閉めたことからすれば、ネットワークの大きさがロシアの意思決定に影響を与えるとは思えない。
モンゴルから輸入ならば中国経由
孫正義氏が構想するようにモンゴルから中国経由送電を行うことは可能だろうか。まず、不安定な風力発電設備からの送電の場合には凪になった時のバックアップ電源をどこで確保するのか問題だ。日本で確保可能であればモンゴルから送電してもらわなくても国内で発電すればよい。モンゴルあるいは中国で確保可能だろうか。無理だろう。電気が不足している中国経由の送電だ。そんな設備があれば中国が利用する。
シーメンス、ABBなどの欧州企業連合は現在、サハラ砂漠に太陽熱発電設備を建設し、地中海経由で欧州に送電を行うデーザテックプロジェクトを推進している。太陽熱発電は蓄熱を行い発電するので、太陽光と異なり24時間発電可能だ。総投資額は50兆円近い大プロジェクトだ。サハラ砂漠の近隣諸国には大きな電力需要はなく、電力を欧州に送電することは可能だ。
モンゴルに風力ではなく太陽熱発電設備を設置すればどうだろうか。この場合も電力は途中の中国に行き、日本に来ることはないだろう。安定的な電力であれば、まず中国が欲しがる筈だ。モンゴルから電力を受け取り、それを日本に送り出すだろうか。