週刊アエラ5月28日号は「電力は輸入すればいい 原発再稼働だけが道ではない」とのタイトルの記事を掲載した。朝日新聞は6月4日に「動く極東エネルギー」との特集記事を掲載し、ロシア極東で発電し日本に電力を輸入する可能性に言及した。
欧州とは違うアジアの電力需要構造
昨年の震災後、欧州のように近隣諸国から電力輸入ができれば、停電の事態は避けられる、あるいは脱原発も可能になるとの意見が登場した。上述の記事はこの発想を伝えるものだ。実業界でも、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入に熱心なソフトバンクの孫正義社長は、モンゴルで風力発電を行い、海底ケーブルで日本に送電する構想を進めている。
直流高圧送電の性能の向上により、大きな送電ロスなく海底ケーブルで送電を行うことは技術的には可能だ。しかし、実現のためには、技術以外で多くの問題がある。まず、電力の輸出入が活発な欧州とアジアの電力事情は全く違うということだ。
桁違いに需要量が小さい東南アジア諸国
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福島第一原発事故後ドイツが行った7基の原発の即座停止は、送電線網がフランスをはじめとする隣国と繋がっていたために可能だった。日本も送電線がアジア諸国と繋がっていれば、脱原発が可能との意見がある。他のアジア諸国で発電し電力を輸入するアイデアだ。しかし、この実現は不可能だ。アジア諸国と送電線を繋げても日本には電気が来ない可能性が強い。欧州とアジア諸国の電力需要量の違いと、今後の需要量の伸びの違いにより、ドイツと日本を取り巻く事情は全く異なるのだ。
欧州連合主要5カ国とスイスの発電量と電力の輸出入量は図-1の通りだ。ドイツとスペインでは需要量は2倍程度違っている。また、電力輸出入は活発だ。フランスは世界最大の電力輸出国で発電量の8%を周辺諸国に供給している。
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さて、アジア諸国の発電量は図-2の通りだ。欧州と異なり、中国、インド、日本、韓国が大きな電力需要国だが、東南アジア諸国は桁違いに需要量が小さい。新興国として注目され人口が日本の2倍のインドネシアの電力需要は日本の7分の1だ。東南アジア諸国から日本に電力を輸出するとなると、欧州と異なり発電量の相当部分を日本に売ることになる。そんなことが可能だろうか。