2024年7月16日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2012年6月22日

 それを表すキーワードの一つが、「食システム(food system)」。「食料の生産、流通、消費の各段階を切り離して捉えるのではなく、相互に影響し合いながら一つのシステムを構築しているという考え方」を指す。食のサプライチェーンのネットワークがグローバルに張りめぐらされた現在、食システム全体に目を向けなければ、根本的な問題解決は図れない、と著者はいう。

ハドソン川の釣り人から植物遺伝学者まで
圧倒的な取材力に脱帽

 <本書では、読者の皆さんに、肥満や食料を介して広がる伝染病の蔓延、いつまでも根絶できない飢え、さらには、第三世界における荒地から巨大な輸出専用農場への転換といった、現在私たちが直面している一見異なる問題の多くが、実はそもそも現在の食システムを生み出したものと同じ経済的メカニズムと関連していて、またそのことがこれらの問題をより深刻なものにしていることを伝えたいと考えた。そして、そのために、昨今、食料について語られている様々な問題を吟味し、食経済全体を幅広く掘り下げてみた。>

 そのとおり、掘り下げた広さは、地球規模だ。

 1940年代終わりのニューヨーク州オレンジタウン。ハドソン川の釣り人から始まり、スイス・ローザンヌ郊外にあるネスレ研究センターに集まる「新しい物好きで、子供が学校から帰宅するまで暇な主婦」。フランス北西部の精肉工場でプレミアムチルド肉を製造する会社社長。フロリダ州議会議事堂で食品業界からの電話を受ける下院保健委員会事務局長。中国山東省の博覧会場にしつらえた温室でピーマンを栽培するベンチャー起業家風の農夫。ケニア中南部の農場で雨を乞う夫婦。アイオワ州立大学でトウモロコシの遺伝子を研究する植物遺伝学者。さらにスコットランドの巨大養殖池や九州の合鴨農法にいたるまで、とにかく歩き、話を聞いている。同じジャーナリストとして脱帽する。

 複雑にからみあった、容易に答えの出ない事象を扱っているのにもかかわらず、読者を最後まで引っ張っていく力は、その臨場感によるものだ。

食システム破綻に対する危機感

 「食」は、私たちのいのちにも、巨大な経済にもかかわるものだけに、ややもすると感情的に「正義か悪か」の二元論をふりかざしがちになる。書くほうも読むほうも、白黒はっきりしているほうがラクで心地よい。

 本書も、いわゆる巨大企業を悪者扱いするところがあり、論の展開に首をかしげる部分はあるが、全体としてはバランスよく多様な意見を紹介している。世にいうところの”悪”をまずは叩くことで、読者を議論に引き入れようという巧妙な戦略かもしれないが。


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